魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
リコと小百合が言葉を交わしている横で、ラナはみらいに気楽に挨拶してから、みらいが抱いているモフルンの頭をなでていた。
小百合は目の前にある何の変哲(へんてつ)もない自動改札口を見つめていった。
「で、どうやって魔法界に行くのかしら?」
「これよ」
リコが小百合にカードを見せる。小百合は最近全く同じものを見ている。
「ラナもそれで魔法界へ行こうとしていたけれど無理だったわ」
「もう普通のマホカは使えないわ、これは特別製なの。ついてきて」
リコが先行し、その後をみらい、ラナ、小百合と続く。そして、リコが自動改札機のカードリーダーにマホカを置いた瞬間に世界は一変した。自動改札機は消えて代わりにお化けの駅員がいる改札台に変わり、奥には電車のようなものが停車している不思議な空間が広がった。
「ご利用ありがとうございます」
お化けの駅員が可愛らしい声でいった。駅構内に一歩入った小百合は立ち止まり辺り一体を見ていた。その横でラナは満面の笑みを浮かべる。
「どうなってるの……?」
「うわぁ、よかったぁ、ちゃんと中にはいれたよ〜」
「ここから魔法界に行けるのよ。そして、見て驚きなさい!」
リコは返した手のひらで構内に唯一ある電車のようなものを指した。
「あれが夢のカタツムリニア寝台特急よ!」
それを聞いたみらいとラナが同時に大きな目を輝かせる。
「部屋はもちろんお風呂も完備! 極めつけはレストランの車両付きでなんでも食べ放題よ!」
「わくわくもんだぁっ!」
「ファンタジックだぁっ!」
みらいとラナが感極まって同時に叫んだ。
「あんたたち気が合いそうね」
そういう小百合は一人だけ沈んでいた。リコがすぐそれに気づいていった。
「初めて魔法界にいくんだから心配なのはわかるわ。でも大丈夫よ」
「そこは心配していないんだけど、カタツムリニアっていうネーミングがね……」
小百合は不吉なものを感じて奥の電車的な何かをよく見ないようにしていたのだが、真実から目をそらすのは彼女の性に合わない事なので、結局は我慢できなくなって電車的な物を凝視した。すると瞬間に顔から血の気が引いた。
「な、なんか巻貝の貝殻みたいなのが見えるんだけど……」
「それは、カタツムリニアだからね」
「しかもあれ、動いてない!?」
「まあ、カタツムリニアだからね」
淡白に答えるリコは、小百合の様子がおかしいので察しがついてきた。その時に車両の一番前にいるものがグイっと首を曲げて二本の長い触角の先にある丸い目が小百合を見た。それは紛れもなく巨大なカタツムリである。
「ひいいぃぃっ!!?」
小百合は絶叫すると腰が砕けてその場に座り込んでしまう。
「カ、カ、カ、カタツムリ……」
「あれぇ? 小百合ってカタツムリ苦手なの?」
「意外な弱点ね」
ラナとリコがいうと、小百合は立ち上がり足を震わせながらいった。
「な、なに言ってるの、カタツムリなんて怖いわけないじゃない」
『へぇ〜〜〜』
三人の視線が小百合に集まる。
「何よあんたたち、その目は!」
「じゃあみんなで前の方までいって見ようよ、小百合は初めてなんだからもっとよく見たいでしょ〜」
「止めてそれだけはっ!!?」
「やっぱり苦手なんだ」
ラナの意地悪の前に小百合は観念していった。
「そうよ、カタツムリだけは駄目なのよ……」
「じゃあナメクジは平気なんだぁ」
「それはもっと駄目っ!」
それから小百合はカタツムリが苦手になったいきさつを話し始めた。
「わたしが小学生の頃に、いじめっ子がわたしの顔にカタツムリを付けたのよ。それからカタツムリが怖くなってしまったの。そのいじめっ子はギタギタにしてやったけどね」
「いじめっ子はギタギタにしたのに、カタツムリは怖くなっちゃったんだね……」
そういうみらいは、カタツムリが怖い一方でいじめっ子を撃退してしまう小百合に驚きが隠せない。
「どうなってんのよあれは! カタツムリが車両を牽引(けんいん)するなんてナンセンスだわ!
あんなので本当に魔法界にたどりつけるの!?」
小百合は今度はリコに対して怒り出す。巨大なカタツムリを見たことで冷静ではなくなっていた。
「まあ落ち着いて、カタツムリニアはナシマホウ界のカタツムリに形は似ているけれど、まったく別の生き物なの。彼らは体内に魔力を生成する器官をもっていて、通常では考えられない大きな魔法力を発現して高速飛行することができるのよ。あの大きな殻は、主に魔力生成器官を守るためのものだといわれているわ」
「おお〜、さすがリコ!」
「魔法学校で勉強一番なだけあるね〜」
みらいとラナが拍手しながらいった。リコにそこまで詳しく説明されると小百合はぐぅの音も出なかった。小百合は思考が論理的なので、納得のいく説明があればとりあえず落ち着ける。
「……あれに乗っていくしか魔法界に行く方法がないのでは仕方がないわね。あれがカタツムリとは違う生き物だってこともわかったし」
「どう見てもカタツムリだけどね」
「考えまいとしているんだから、余計なこといわないで!」
ラナは小百合にすごく怒られた。
「グズグズしている暇はないわ、早く魔法界に向かいましょう」
四人の少女が車両に乗り込むと、カタツムリニアが「カタカターっ!」と汽笛代わりの声を出し、三両編成の車両が動き出した。
出発直後、ナシマホウ界を見ようと最後尾の車両の窓に4人が集まってくる。みらいのはモフルンを、小百合はリリンを抱いていた。唐突に予想もしないものが目に飛び込んできて、みらいが驚愕する。
「えっ!? あれって魔法陣!?」
「ええ、そうみたいね」
来る時にその魔法陣を目撃しているリコは平静だった。4人の目に直径がナシマホウ界と同じくらいの巨大な月と星の六芒星魔法陣が映っていた。カタツムリニアのレールはその中心から伸びている。暗い色の魔法陣は透けていて向こう側にナシマホウ界の姿がおぼろに映っていた。
「あれってフレイア様の」
ラナが小声で言うと、小百合がきっと睨んで唇に人差し指を当てた。
ひと段落してから、リコが先頭に立って車内を案内した。一両目の車両がレストラン、二両目が宿泊施設、三両目は休息スペースになっている。宿泊施設には部屋が二つあったので、それぞれ分かれて部屋を確認する。ラナは部屋に入るなり、はしゃいで走り回った。
「うわぁ、すごいなぁ。わたし寝台列車って初めてだよぉ」
「わたしも初めてよ」
小百合のポシェットの中で大人しくしていたリリンが出てきて飛びあがる。
「素敵な部屋デビ、ベッドは二段になってるデビ」
「わたし上でねる〜」
「はいはい、好きなようになさい」
小百合は荷物を部屋の隅に置くと、さっきから気になっていたことをいった。
「あんた、荷物はどうしたのよ? 前に三日分の着替えがあるとかいっていたわよね」
「全部ここにあるよ」
ラナは小さなポシェットを両手でもって小百合に見せた。
「ふざけないで、そんなポシェットに入るわけないでしょ」
「入るんだよ。これは小さいから十日分の荷物しか入らないけど、リコとみらいが持っていた魔法の鞄なら一年分の荷物が入るんだよ」
「そんな便利アイテムだったの!?」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ