魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
その時、ラナが余計なことを言いだしそうな気配があったので、小百合は睨みを効かせる。それでラナは開きかけた口を慌てて閉じた。
「そうなのよ。モフルンも魔法で、ね」
リコが同意を求めるようにみらいを見ると、みらいは何度も頷いた。
「もうリリンを隠す必要はないわね。あんたも一緒にご飯食べましょう」
「うわーい、みんなで一緒にご飯デビ、うれしいデビ!」
「モフルンも一緒もモフ」
「じゃあ、レストランの方に案内するわ」
みらいとラナはまだ衝撃から覚めていないが、リコと小百合は何でもない態度で、リコは部屋を出て先に立ってみんなにいう。
「さあ、魔法界の高級食材があつまったスペシャルなディナーにご招待するわ」
リコのその一言で、少し呆然(ぼうぜん)としていたみらいとラナは一気に目が覚めて元気になった。
「魔法界の高級食材があつまったスペシャルなディナー!! わくわくもんだぁ!!」
「すごくファンタジックだよ〜」
みらいはモフルンを抱き、ラナはリリンを頭の上に乗せてリコの後を歩き出す。二人とも待ちきれないという様子だった。一番後ろを歩いている小百合は誰にもわからないようにほっと息をついた。
「うわぁ、すてき!」
みらいがレストランに入るなり目を輝かせていった。この車両には白いクロスのかかったテーブルが合計で四組あった。それらの中央には小百合がみたこともない花が飾ってある。一つ一つのテーブルは四人で食事するには手狭(てぜま)だ。
「テーブルくっ付けてみんなで食べよ〜」
「賛成!」
みらいがラナに同意して二人で動き出す。リコと小百合もそれを手伝う。ラナはもうさっきあった事など気にもしていない。小百合は明るく剣呑(けんのん)とした空気を作ってくれるラナが今の状況ではありがたいと思った。
すぐに二つのテーブルが並び、そこに四人の少女と二人のぬいぐるみが向かい合って座った。
「メニューです〜」
コックの格好をしたお化けがそれぞれの前にメニューを置いていった。
「モフルンはクッキーがいいモフ!」
「リリンもクッキーたべたいデビ!」
「了解しました〜」お化けのコックがぬいぐるみたちに答える。
小百合はメニューを開いて顔をしかめた。
「読めないわ……」
「魔法界の言葉で書かれているから、聖沢さんには分からないわよね」
「十六夜さんにお願いするわ。何かおすすめのものを頼んでもらえる?」
「わかったわ。お肉とお魚、どちらがお好みかしら?」
「お肉にするわ」
「そうね、じゃあ、デリーシャ牛のフィレステーキを二人分お願いね」
「デリーシャ牛? 変わった名前の牛ね」
小百合は自分が知らないことや分からないことは追及せずにはいられない。聞かれたリコは得意になって説明した。
「魔法界にはあらゆる食材を生産しているグルメ島があるんだけど、そのグルメ島のなかで最もおいしくて高級な牛がデリーシャ牛なのよ。その生産量は少なくて滅多に食べられるものではないの」
「神戸牛みたいなものかしら、楽しみだわ」
「わたしは、これとこれとこれとこれ〜」
小百合の目の前で、ラナがメニューに指をさしていく。続いてみらいも。
「わたしは、これとこれとこれとこれね!」
「あんたたち、そんなに頼むの!?」仰天する小百合にみらいがいう。
「とりあえずね」
「とりあえずですって!?」さらに仰天する小百合の前でラナが頷いて同意している。
「朝日奈さんはともかく、ラナはもう少し遠慮(えんりょ)しなさい。わたしたちは便乗させてもらってるんだから」
小百合がいうと、ラナは不服そうに「え〜」といった。
「遠慮なんてしなくていいのよ。なんでも食べ放題なんだから」
リコの助け舟があって、ラナは強気になっていった。
「そうだよ、食べなきゃ損だよ」
そしてラナは隣のみらいと顔を見合わせて『ね〜』と二人で嬉しそうにいった。小百合はちょっとだけ仲間外れにされたような感じになって、ラナにもう一言いってやりたい気分になったが大人になってここは我慢した。
楽しい夕食が終わり、それぞれ部屋に戻る。ラナとリリンは部屋に入るなり、ソファーに寝転がった。
「おなかいっぱいだよ〜」
「デビ〜」
小百合はリリンの隣に腰を下ろし、はらいっぱいで寝転がっている二人を呆れてみている。
「美味しいもの食べて寝転がって、いい身分ね」
「ここにフカフカのソファーがあるのが悪いんだよ」
仰向けになりながらいうラナに、小百合はさらに呆れた。
「……お風呂に入ったら寝ようとおもうんだけど、ベッドには毛布も布団もないわ。あるのは大きな巻貝の殻みたいな謎の物体だけなんだけど」
「それはヤドネムリンだよ〜、それで寝るんだよ」
「やっぱりそうなのね、そんな気はしてたけど……」
「その中だとすんごい良く眠れるんだよ」
「とてもそうは見えないけれど、これも魔法のアイテムなんでしょうね」
「そうだよ!」
小百合はそれ以上は何も聞かなかった。魔法界のアイテムの性能を少しは知っているし、魔法なんだからどんな常識外れなことがあっても不思議はないと割り切っているところもある。
それからラナと一緒に風呂に入り、寝る段になると、ラナは上のベッドのヤドネムリンに頭から飛び込んだ。巻貝のような寝袋から足首から下だけがでている姿は何とも言えず剽軽(ひょうきん)である。小百合は明らかにおかしい寝方をしているラナに言わずにはおれなかった。
「あんた、寝方逆じゃない?」
「こっちの方が落ち着くんだよぅ」
巻貝の中からくぐもった声が聞こえてくる。小百合はどうしてもいたずらしたくなって、ラナの足の裏をくすぐった。すると、「やめて〜」とラナの足が貝殻の中にひっこんだ。体をまるめたようだ。小百合は貝殻の中に身を隠すヤドカリみたいだなと思った。
みんなが寝静まった頃、リコは一人でテーブルの前に腰かけて考えていた。静かな室内にみらいとモフルンの寝息がはっきりと聞こえる。リコはリリンの事を考えていた。
「あのリリンがモフルンと似た存在だと仮定したら、そう考えられるわよね……」
リコは疑いをもっていたが、小百合の平静とした態度からそんな疑いを持っていいものか迷いがあった。
「リリンは、本当に魔法でたまたましゃべれるようになっただけなのかも」
リコは自分に言い聞かせるようにいったが、内心では結論には至ってはいない。そう思うようにしたという方が正しい。
翌日、みらいとリコが起きて歯をみがいたり鏡の前で髪をすいたりしていると、ソファーに座ってゆっくりしていたモフルンが不意に変なことをいいだした。
「とっても甘いにおいがするモフ」
リコは髪をとかす手を止めていった。
「厨房にはケーキやクッキーがたくさんあるからね」
「そうじゃないモフ、リンクルストーンの甘いにおいモフ」
「リンクルストーンだったら、わたしが全部もってるよ」
みらいがいうと、モフルンは首を横に振った。
「それじゃないモフ」
モフルンがいうと、二人とも困ったような顔をした。エメラルド以外のリンクルストーンはみらいが持っているので、他にリンクルストーンなどあるはずがないのだ。二人の困惑を感じたモフルンは黙ってしまった。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ