魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
この時にバッティが少し顔を歪めた。
「伝説の魔法つかいプリキュア……」
「ねぇ、ダークナイトさんとバッティさんはどれくらいフレイア様の召使なの?」
ラナがその場の空気を無視して質問する。まずダークナイトが答えた。
「わたしはもう年月など忘れたな……」
ダークナイトは小百合の想像とは違って若々しい青年の声で言った。
「わたしがフレイア様に仕えたのはつい最近のことです。わたしとフレイア様は魔法の森で出会い、そこでフレイア様が」
「バッティ!」
フレイアの強い声にその場の全員が緊張した。
「申し訳ありません、少ししゃべり過ぎました」
一瞬だけフレイアの顔から笑顔が消えていた。小百合はバッティが何を言おうとしていたのか気になった。フレイアはもういつもの笑顔に戻っていた。
「二人とも、これからもお願いしますね」
「それで終わりかよ。もっとお前には話すべきことがあるだろう」
唐突に異質な声が飛び込んできた。それは小百合たちの背後から聞こえた。小百合とラナが振り向くと、薄闇の中に邪悪で強烈な魔力を放つ男が腕を組んで立っていた。
「あなたは、ロキ……」
フレイアの顔からいつも変わらなかった笑顔が消えていた。代わりに今にも押しつぶされそうな程の不安と悲しみにより、今にも涙が零れそうな顔になっていた。
「こいつがロキ!」
小百合の中で敵意が燃え上がる。ラナも小百合に合わせて身構え、二人の間にリリンが降りてくる。ロキは自ら敵地に乗り込んできただけあって、余裕の笑みを浮かべていた。
「暗黒騎士に闇の魔法つかい、それに宵の魔法つかいプリキュアか。フレイア、いい部下をもっているじゃねぇか、少し分けてもらいたいくらいだぜ」
「彼らは部下ではありません、同士です」
「何が同士だ、お前がきれい事なんて言うなよ。俺の言っている意味はわかるよなぁ?」
フレイアは声を殺して身を震わせていた。ロキの言葉の中には、フレイアにとって非常に痛烈な何かが含まれているようであった。ロキはそんなフレイアの様子を見て心の底から愉快そうに笑い声をあげた。
「ギャハハハハハ!! いいねぇ、その顔! 俺はよぉ、かつて光り輝く丘にあったこの神殿や、闇に堕ちたお前の姿をみていると、マジで心の底から楽しくなってくるんだぜ!」
「あんた、いい加減にしなさい!」
「もう許さないんだからね!」
小百合とラナが胸に大きな怒りを秘めてロキを睨む。
「ほほう、この俺とやろうってのか? いいだろう、お前たちの力を見せてみろ!」
二人はロキに対する怒りを言葉にかえて同時に放った。
『フレイア様を悲しませるなんて、絶対に許さない!!』
小百合とラナが左手と右手を強く握ると、黒いとんがり帽子の背後に赤い三日月が光る紋章が現れる。握った手を後ろへ、同時に全身がオーロラのような輝きを織り込んだ黒い衣に包まれて、二人はリンクルブレスレッドを頭上に上げる。
『キュアップ・ラパパ! ブラックダイヤ!』
二人のブレスレッドの黒いダイヤから溢れた光が一条の光線となって弧を描き、リリンの胸のブローチに吸い込まれると中央に光り輝くブラックダイヤ現れる。
『リリン!』
二人に呼ばれてリリンが飛び込む。3人で手を繋いで輪となると、リリンの胸に黒いハートが現れて明滅する。つぎの瞬間に少女たちは無数の星がまたたく宇宙空間へ放たれた。
『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』
体を大きく開いた3人は互いを見つめあい、希望の輪を描いたままゆっくり回転しながら星空と暗闇の海の中へと消えていく。そして闇の中に月と星の六芒星が浮んで輝く。
神殿の中に月と星の六芒星の魔法陣が広がって輝き、薄暗い内部を瞬時に煌々と照らした。魔法陣の上リリンとにダークネスとウィッチが召喚される。リリンが前に飛んでいくと、二人は魔法陣の上から跳んで、ダークネスは右、ウィッチは左側に着地する。
「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」
「可憐な黒の魔法、キュアウィッチ!」
二人はポーズを決めて、強く握り合った左右の手を後ろ手に体を触れ合せ、もう片方の手は互いを愛でるように優しく握りあって悩まし気な少女の色香を醸し出す。二人が離れると後ろの手を前へ、軽く開いた優美な手で敵を指す。
「魔法つかいプリキュア!」
それを見たバッティは深紅の瞳を開いた。
「その姿はまさしくプリキュア!」
ロキは腕を組んで仁王立ちの姿で不気味な笑みを浮かべながらプリキュアとなった二人を見ていた。
「ほう、懐かしいな! お前たちを見ていると昔を思い出すぜ」
ロキは玉座にいるフレイアを見上げる。
「なぁ、フレイア、お前だってそうだろう? どうして今頃になって宵の魔法つかいなど復活させたんだ? 郷愁(きょうしゅう)にでも駆られたか?」
何もいわないフレイアの顔に笑みはなかった。
「黙りなさい! それ以上なにか言ったら承知しないわ!」
「威勢がいいな、ダークネス」
ロキは人差し指を自分の方に向かって何度も動かして、いつでもかかってこいと無言で挑発した。今にもロキに向かっていこうとする二人を見て、フレイアは玉座から立ち上がって言った。
「いけません! ロキに闇の力は通用しないのです、今のあなた達では……」
「お待ちください、フレイア様」
傍らのダークナイトが悲痛な姿を晒すフレイアに言った。そんなダークナイトの姿を見て、フレイアは胸に手を当てて少し落ち着くことができた。
「やらせてみましょう。あの者たちの気迫はなかなかのものです。ロキに一矢報いるやもしれませぬ。それに、わたしはあの二人のフレイア様に対する忠義を見てみとうございます」
バッティもフレイアを守るために傍らへと参じる。
「プリキュアの力は計り知れません。それはわたし自らが何度も体験していることです。彼女たちは我々の想像を超える力を見せてくれるでしょう」
「あなた達がそのように言うのならば、わかりました。少し様子を見ましょう」
バッティの右手にドクロの杖が現れる。彼はそれを握ってマントをひるがえす。
「フレイア様は我々はお守りする! 君たちは存分に戦いなさい!」
「バッティさん、ありがとうございます!」
ロキとプリキュア達との間に戦いへと誘う目に見えない焔があがった。
「ウィッチ、あいつをぶっ飛ばすわよ!」
「うん!」
二人は爆発的な勢いで走り出し、空気を切ってロキに迫る。そして同時に跳躍してロキに向かってパンチを繰り出した。ロキが手を広げると、そこから中央に竜の骸骨が刻まれた六芒星の闇の魔法陣が広がっていく。二人の拳が魔法陣に激突して火花が散った。
「はあぁっ!」
「だあぁっ!」
ダークネスとウィッチの気合と拳を受け止めた衝撃で、ロキは足がずり下がり少し後退させられる。
「はっ!!」
ロキが魔法陣を押し返し、二人は魔法陣から噴出した爆風で吹っ飛ぶ。ロキは両手に黒いエネルギー弾を召喚し、それを空中にいるプリキュア達に投げつけた。エネルギー弾がそれぞれに当たって爆発する。
「キャアァッ!?」
「うわぁっ!?」
吹っ飛んだ二人は炎を纏いながら墜落して煙と粉塵が舞い上がる。
「ダークネス、ウィッチ、大丈夫デビ!?」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ