魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
リリンが心配して近づくと、もうもうと上がる煙の中から二つの影が飛び出す。速すぎてリリンにはその姿が見えなかった。刹那、ロキの左右に気配が迫った。
「くらえっ!」
「てやーっ!」
左側からダークネスが飛び蹴りを、右側からウィッチがパンチを仕掛けてくる。二人は薄闇を隠れ蓑に利用してロキに接近したのだ。
「なにっ!?」
ロキはとっさに両腕を立てて防いだ。少女たちの拳と足が彼の腕に食い込む。
「こしゃくな!!」
ロキは両腕を広げてプリキュアを力で圧倒して吹き飛ばした。うまく着地したダークネスが石床に靴を滑らせながら右手のブレスレッドを胸の辺りに上げて叫ぶ。
「リンクル・オレンジサファイア!」
火色の輝石がリンクルブレスレッドに輝く。
「炎よ!」
ダークネスの右手から渦を巻いて吹き出す炎がロキに迫る。ロキは無造作に左手を出し目に見えないバリアでいとも簡単に防いだ。
「この程度の炎など」
「リンクル・インディコライト!」
ロキがその声に振り向くと、ウィッチが目の前に立っていた。ダークネスは隙を誘うためにロキに攻撃をしかけたのだ。ウィッチは地面に手を付いて魔法を解き放った。
「電気ビリビリーっ!」
いくらロキが凄くても地面を伝ってくる電気は防ぎようがない。足から全身へと駆け巡る電気の魔法にロキは怯んだ。
「ぐおっ!?」
その隙にダークネスとウィッチは並んでバク転を繰り返しロキとの距離を開ける。
「受けてみなさい、わたしたちの魔法を!」
ダークネスが左手を返すと、ウィッチが右手でそれをぎゅっと握る。二人は強く握った手を後ろに、頭上で手をクロスさせてリンクルブレスレッドを重ねる。
『二つの魔法を一つに!』
ダークネスは上から右に、ウィッチは上から左に向かって半円を描いていく。二人のブレスレッドの軌跡に光が残され半分が薄ピンクで半分が赤の真円が完成する。それから一瞬にして円の中にピンクと赤の三角で六芒星が描かれ、中央に薄ピンクの三日月、周りに赤い星をちりばめた魔法陣が完成する。
「合成魔法か!」
ロキが身構えて言うと、2色の魔法陣が眩い光を放つ。
『赤く燃え散る二人の魔法!』
二人は後ろで握る手に力を込めて魔法を放った。
『プリキュア・クリムゾンローズフレア!!』
魔法陣から燃え上がる花びらが無数に吹き出し、深紅に輝く花吹雪がロキに降り注ぐ。
「ふん!」
ロキは右手から竜骸の魔法陣のバリアを展開した。大きく広がったロキの魔法陣に凄まじい勢いで燃える花びらが叩きつけられる。魔法陣を押さえるロキの右腕が少し震えていた。しかも魔法陣にぶつかってきた炎花は消えずに留まって魔法陣の上で密度を増していく。そして時が止まったかのように一瞬だけ全ての花びらが停滞し、次に一気に真紅に燃える花びらが魔法陣の中央に集まり大爆発を起こした。その瞬間にダークナイトは巨大な盾で、バッティは杖の先から展開した奇妙な魔法陣を盾にしてフレイアを守る。バッティは地響きまで起こす強烈な魔法に驚愕した。
「何という威力ですか!? 二つの異なる魔法を合わせるとは、伝説の魔法つかいプリキュアとは明らかに異質な力!」
ロキは石床を溶解させる程の業火に包まれ、その炎は渦を巻いていた。その中に見えるロキの黒い影が次第に姿を変えていく。その体は膨らんで二回りほど大化し、背中に巨大な翼が現れる。そして荒れ狂う炎が急に掻き消えてしまう。炎が消えた後には何者もいなかった。
ダークネスとウィッチがロキの姿がない驚いたその瞬間、目の前に巨躯ともいえる体になったロキが現れる。ウィッチは巨大な翼を叩きつけられ、ダークネスは強烈な蹴りを腹部に受けて左右に同時に吹っ飛んだ。二人とも悲鳴を上げ、ダークネスは石の支柱に叩きつけられて柱は粉々になって崩れ、ウィッチは壁に叩きつけられて小柄な体で石の壁を大きく陥没させる。フレイアの前には背中に巨大な蝙蝠のような翼のある鋼のような肉体のロキが腕を組んで立っていた。頭の角も相まってその姿は悪魔そのものだ。上半身の中心、胸筋から腹筋にかけて人の目を縦にしたような異様な文様が刻まれ、両腕の上腕にも同じようなものがあった。下半身は膝から下の衣服は燃え尽き、その足は丸太のようで筋肉で張っている。四肢の爪は鋭く尖っていた。
「今の魔法は中々だった。この俺が少し本気を出しちまったぜ」
「ダークネス! ウィッチ! しっかりするデビ!」
リリンがどうしたらいいのか分からずに右往左往していた。リリンが瓦礫の中に埋もれているダークネスに近づくと、彼女は目を開けて地面に手を付いた。苦し気な表情を浮かべながらも、ダークネスは片膝をついて起き上る。反対側ではウィッチも力を振り絞って立ち上がろうとしていた。ロキはそんな二人をあざ笑う。
「まだやろうってのか? 今ので力の差はわかったはずだ」
「ざけんじゃないわよ、誰があんたなんかに負けるものですか」
ダークネスがそういって立ち上がる。二人とも立つのがやっとなのに、覇気はまったく失われていない。にやけていたロキが真顔になった。
――何だこいつらは? ボロボロのくせに負けてるって気配じゃねぇ。
「ウィッチ!」
ダークネスの呼びかけにウイッチが頷く。そして二人は別々の場所で同時に走る。
「リンクル・スタールビー!」
ダークネスの腕輪にスタールビーが宿る。その瞬間にダークネスとウィッチは同時に跳び、そして二人は空中で出会った。
「スタールビーよ、プリキュアに力を!」
ダークネスの腕輪から出た赤い光の玉が二つに分かれてそれぞれダークネスとウィッチの胸の辺りに吸い込まれる。力を得た二人は黒い炎を纏いながら急降下してロキに迫る。
「ちぃっ、こりない奴らだ!」
ロキは右手一つで同時に急接近してきた二人の蹴りを受け止める。
『はあぁーーーっ!!』
「ぬおっ!?」
二人の蹴りの衝撃で周囲の床が陥没し、ロキは後方へ弾き飛ばされた。ずり下がる勢いが止まらず、ロキは床に爪を立ててようやくその身を静止した。
「今のは痺れたぜ」
ロキは攻撃を止めた右手を振りながら言った。
「闇の力で俺様に衝撃を与えるとはな。お前たちが光の力を持つプリキュアだったら確実にダメージを受けていただろう。褒美にちょっとした昔話をしてやろう、お前たち宵の魔法つかいのな」
それを聞いたフレイアは身を震わせた。ウィッチとダークネスがその様子を心配そうに見つめる。
「それ以上のフレイア様に対する無礼は許しませんよ!」
「次は我々が相手になろう」
バッティは右手にドクロの杖、左手に黒い牙と白い羽根を出した。ダークナイトは盾から巨大な剣を抜いて構える。そしてダークナイトがいった。
「わたしが命と引き換えにすれば、お前を半殺しくらいにはできよう」
「なぁにぃっ? そいつは笑えない冗談だな!」
「わたしは生まれてから冗談など一度もいったことはない」
ダークナイトがクールに答えるとロキは黙った。
――はったりじゃねぇ。それに、闇の魔法つかいも妙なもの持ってやがる……。
ロキは笑いを浮かべてもう終わりだと言うように両手を返した。
「こいつは本当に火傷しそうだ。まあ、今日はあいさつに来ただけだ。これで帰るとするぜ、あばよ!」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ