魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「それって、小百合と一緒でいいってこと?」
ラナに校長が頷く。ラナは「やった〜」といってその場で飛び跳ねて、校長に向かっていく。
「校長先生、だぁいすきっ!」
ラナは校長に飛びついて頬にキスをする。その唐突過ぎる衝撃行動に他の3人は固まり、リズは微笑んだ。校長は特に動じたりはせず、まんざらでもないという顔だった。
「小百合は何であんなにうまく魔法が使えるの?」
みらいに聞かれると、小百合は手に持っている杖の三日月のクリスタルを見つめる。
「よく分からないわね」
「イメージトレーニングをしっかりやっていたからよ。普段から魔法をイメージすることは、実際に魔法をつかうことと同じくらいに効果的なのよ」
そう言ったのはリズだった。
「そうなんだ! わたしもやろう、イメージトレーニング!」
いくらイメージトレーニングしても、魔法をうまく使えない人もいる。楽し気なみらいの隣でリコはそう思う。実際に、リコはイメージトレーニングにも力を入れていたが、二年生のある時期までは、魔法がうまくいかなくて悩んでいた。そこに自分と小百合との差を感じざるを得ない。
「校長先生はラナの病気のことを知っているんですよね?」
小百合が真摯に校長を見つめていった。
「もちろん、知っているとも」
「ラナって病気だったの?」
みらいが心配そうに隣のラナを見つめると、ラナは頭の後ろに手をやって言った。
「うん、じつはそうなんだぁ。なんていったっけな〜、確か大魔王大将軍?」
「明らかにその名前は間違っているわね……」
自分の病気のこともよく知らないラナに小百合が呆れる。見かねたリコが口をはさんだ。
「大魔力症候群でしょう」
「それはどんな病気なの?」
「普通では考えられない大きな魔力を生まれつき持っていて、そのせいで魔法が制御できないの。百万人に一人くらいのとても珍しい病気なのよ」
リコの説明によって、小百合はようやくラナの病気の正体を知る事ができた。
「この子は並みの魔法つかいの五倍以上の魔力を有しておる。故に魔法によって起こる現象が拡大してしまうのだ」
「確かに、小さな蝶がものすごく大きくなったりドラゴンになったり……」
小百合は校長の言葉から過去を思い出す。校長は、ラナに向かって言った。
「あのことも話しておいた方がよいのではないか?」
校長が言うと、小百合の方が早く反応した。
「まだ何か隠してることがあるの?」
「別に隠すつもりはなかったんだよ。なんていったらいいのかなぁ……」
「わしから話そう」
言いあぐねているラナを校長がフォローしてくれる。してほしいと思うことを校長は先回りしてやってくれるので、それがラナにはありがたかった。
「この子は自分の魔法を封印することを決めている」
『魔法を封印!?』
みらいと小百合が同時に声を大きくする。リコはやっぱりという顔をしていた。
「大魔力症候群の魔法つかいはある種の魔法に特化し、それによって魔法界に名を残した者も多い。その一方で、魔法の暴走を起こして惨事を引き起こしたという歴史的な事実も存在するのだ。大魔力症候群の魔法つかいが取るべき道は二つ、危険を承知で自分の得意な魔法を活かすか、魔法を完全に封印して危険を取り除き静かに暮らすか」
それを聞いた小百合は気持ちが抑えきれなくなり、机を叩いて校長に迫ってくる。
「待ってください! 魔法界で魔法を封印するなんて、片翼もがれるようなものじゃないですか!」
「その通りじゃ。魔法界で魔法が使えぬことの辛さは、ナシマホウ界の人間にはとうてい理解できまい。それでも、この子は封印を望んでいるのだ」
校長の真剣な目を見て小百合は弾かれるように一歩下がる。小百合は校長の瞳の底に悲しみを見た思いがした。生徒を思う校長の痛みが小百合にも伝わった。
「仕方ないよ、わたしの魔法あぶないんだもん。小百合にもいっぱい迷惑かけたし……」
「だからあの時……」
小百合は言葉を続けられなかった。前にプリキュアになって戦った時に、ラナが新しい魔法にこだわった事を思い出したのだ。あの時は不思議に思ったが、今ならその理由が分かる。
――もう二度と魔法が使えなくなるから、だから新しい魔法にこだわっていたのね。
小百合がラナの両方の肩を掴み、その手に少し力を入れる。ラナはびっくりして上を向き小百合を見つめた。
「あんた、全然仕方ないなんて顔してないわ」
それから小百合は校長の前に歩むと姿勢を正して言った。
「校長先生、ラナの魔法を封印する必要はありません。ラナの魔法が暴走したら、わたしが責任をもって止めます」
校長は無言で微笑した。その表情の裏には「よくぞ言ってくれた」という言葉が声に出すようにはっきりと表れてた。
「そのように言っておるが、君はどうする?」
ラナは本当にそれでいいのか迷ってしまった。自分では決められずリズやリコ、みらいの顔をみていくと、みんなそれでいいと言うように頷いてくれた。
「小百合、本当にいいの?」
「安心しなさい、ちゃんと止めてあげるから」
「よかったね!」
みらいが目に涙を浮かべながらラナを抱きしめる。
「うん! 本当にありがとう!」
ラナはみらいと抱き合ったままに言った。その場にいる全員に感謝していた。
ラナがスキップしながら歌っていた。彼女の後を三人が歩いてくる。
「あんなにはしゃいじゃって、よほど嬉しいのね」
「そりゃそうだよ、小百合のおかげでこれからも魔法が使えるんだから」
リコとみらいが話していると、前にいるラナが今度はかけだした。
「わ〜い」
「走ったら危ないわよ!」
ラナが走って外に出ていくと小百合が早足になる。後ろからそれを見ていたみらいが言った。
「小百合ってラナのお姉さんみたいだね」
「本当ね」
リコが微笑んでみらいに答えた。二人よりも一足先に外に出た小百合がラナの姿を探す。すると、上から妙な鳴き声がするので見上げた。空にどっかで見たような間抜けが姿をした白いドラゴンと黒いドラゴンが飛んでいた。
「ええぇ!?」
小百合の嫌な予感が一瞬でレベルマックスになる。周りを見ると、馬だか牛だかよく分からない大型の獣が走っていたり、真ん中に口の付いた巨大な花が奇妙な声を出していたりした。
「キュアップ・ラパパ!」とラナがその辺の樹に魔法をかけると、あっという間に巨大化して根っこが足になり枝が腕のようになりおまけに気持ちの悪い顔まで現れる。
「ブモォーーーッ」とそのよく分からないモンスターが雄たけびを上げる。
「ラナっ!! 何やってるのよ!!」
「小百合、わたし一度でいいから思いっきり魔法つかってみたかったんだ〜」
小百合は真っ青になって叫んだ。
「みんな、大変よーっ!!」
幸いに放課後なので生徒はいなかったが、この騒ぎに教師達が駆けつける。
「まあっ!?」と教頭先生は今にも卒倒しそうになり、
「これはこれは」とアイザック先生は意外に落ち着いていた。
校長やリズも出てきて大騒ぎになった。それからしばらくして、教師たちの尽力もあって事態は収拾された。校長とラナ以外は疲れ切って校庭で倒れたり座り込んだりしていた。
「はーちゃんの時よりも疲れたよ……」
「ヨクバールより恐ろしいわ……」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ