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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 これ以上恥をさらしたくはない。小百合は心の中で呪文のように唱えた。
 ――気合入れなさいわたし、気合いれなさいわたしっ!
 小百合が思い切って箒を上昇させると、箒が今にも制御不能になって暴れだしそうに思える。
「ひいぃ、やっぱりだめ!」
 小百合は情けない声を出して高度を下げると、あとは自分が安心できる低空で飛んでいるしかなかった。みんなの視線が集まって小百合は死ぬほど恥ずかしい。そんな小百合を見てエミリーは瞳をうるませる。
「小百合の気持ち、すごくよくわかる」
「あいつはエミリーと違って度胸ありそうに見えるんだけどなぁ」
 ジュンが不思議そうな顔をしていた。
 小百合は校庭に降りるとすごすごとリズに近づいていく。恥ずかしくて目を合せることができなかった。
「箒の制御は完璧にできてるけど高度が足りないわね。箒の試験は最後にもう一度やりましょう、それまでにしっかり練習して下さい。大丈夫よ、あなたなら必ずできるから」
「はい、がんばります……」
 リズの優しさが小百合の胸に痛かった。小百合からいつもの自信満々な姿が消え失せて、肩を落としてすっかり元気をなくしてしまう。集まっていた生徒たちは、期待していたアトラクションが思いのほかつまらなかったとでも言うように不満を残して去っていく。小百合のところには、みらいとラナが駆け寄ってきた。
「小百合、残念だったね。わたし箒の練習に付き合うよ」
「みらい、ありがとう。あなたはいい人ね」
「小百合も失敗する時あるんだねぇ。わたし見直しちゃったよ〜」
「そんな風に見直されたくないわ……」
 ラナの一言で余計に小百合の元気がなくなる。もうラナに言葉を返す気力もなかった。

 恥をさらして散々な小百合だったが、翌日のテストにはしっかりと気持ちを切り替えてのぞんだ。魔法界では、魔法力学、魔法界数学、魔法界地理、魔法界歴史、魔法界生物、占星、魔術、飛翔術の8教科のテストが行われる。そして上位の10人までは校内の掲示板に名前が載るのだ。小百合は今の自分がどれだけできるのか試すつもりでテストに臨んだ。
 テストの翌日の朝、掲示板の前に生徒たちが集まる。掲示板といっても張り紙などはなく、白いスペースの上に魔法で文字が浮かび上がっているのだ。
「みらい、すごいじゃないか! 9番だってさ!」
 ジュンの声に反応して何人かの生徒が振り向いてみらいに注目する。思いもしなかった好成績に、みらいは最初は信じられないという顔をしていた。
「そんな上の方だとは思わなかった、びっくりだよ」
 嬉しいやら驚くやらの友人に、ケイもその喜びを分かち合っていた。
「リコと一緒に毎日遅くまで勉強していたもんね」
「ケイはどうだったんだい?」
「わたしはいつも通りだよ」
「いつも通り、リコが一番ね。やっぱりリコはすごいわ!」
 エミリーがリコにメガネの奥から尊敬のまなざしを送ると、
「ありがとう。でも、わたしよりもみらいの方がすごいと思うわ。短い時間でよく頑張ったと思う」
「リコがいてくれたからだよ!」
 なぜか一番を取ったリコはあまり嬉しそうではない。みらいにはそれが気になる。
「うわ! 見て小百合、2番だって!」
「あんた、よくそこから見えるわね、どんな目してるのよ」
 人だかりの後ろの方から声が聞こえると、そこに注目が集まった。ラナが額に手をかざして掲示板の上の方を見つめている。
「リコと3点差だよ〜、惜しかったね!」
「そう、まあまあね」
 小百合は無感動に言った。一方、リコは死地から生還できたような安堵感に包まれていた。
 ――よ、よかった。勉強で負けたら立つ瀬がないもの。
 それにしてもとリコは思う。小百合はたった2ヶ月ほどで2年分の勉強をこなしてきたのだ。リコにもナシマホウ界で似たような経験はあるが、リコの場合は一年遅れでのスタートだった。小百合はその時のリコより2倍勉強したことになる。違いと言えば、リコが一番の成績を取ったのに対して、小百合は2番だということくらいだ。この差は微々たるものと言える。
 ――小百合はすごいわ、それは素直に認めなければ……
 そうして前に進まなければ、次は小百合に負けるとリコは思った。
「なんだいあの態度、いやな感じだな。あいつは好きになれないタイプだね」
 小百合の「まあまあね」という言葉にジュンがむかついて言うと、リコが小百合に向かって歩き出してジュンはその姿に視線を引っ張られた。リコは一番になった者の貫録(かんろく)をもって小百合の前に進む。
「あなたはすごいわ、短い期間でここまで成績を上げてくるなんて」
「リコ、前にあなたから勉強を教わっていなければ、ここまで来ることはできなかったわ」
「わたしは大したことは教えていないわ」
「小さな事のようだけれどスタートが肝心よ。あなたに最初に勉強を教わることができたのは幸運だったと思っているわ」
 小百合の言ったことは、変に対抗心を燃やされるよりもずっと重くリコの胸にのしかかってくる。リコは身の引き締まるような思いがして、心を新たに、そして小百合に負けないように勉強を頑張ろうと思うのであった。
 数日後に実技のテストも終わり、総合の成績が発表された。リコは自分の席で手渡された成績表を見つめている。そこには全てのテストの点数と総合得点が記載されている。リコは全体で4番の成績だった。前回は実技が足を引っ張っての10番だったので、この成績からはリコの魔法が上達していることがうかがえる。ついに主席の座が見えてきて本当なら喜ぶところだが、リコはどうしても喜ぶ気持ちにはなれない。それどころか、自分の中で見えている現実に悩まされていた。
 ――もし小百合が実技のテストを受けていたら、間違いなく首席だったわ。わたしは負けていた……。
 今まで小百合の実技の試験を見てきて、リコはそれを認めざるを得ない。小百合はテストを受けていないから関係ないと言えばそれまでだが、真面目なリコはそんなふうに割り切ることはできなかった。魔法の成長に個人差があるのは分かっているが、それでも自分と小百合との間にある格差に打ちのめされてしまうのであった。
 その日の授業が終わり、リコはみらいと一緒に寮に向かう。
「ねえ、リコ、次は一番になれそうだね!」
 何となくリコの元気がないので、みらいは元気づけようとあれこれ言っていた。
「ええ……」
 やはりリコの反応が薄い。どうしたらリコが元気になれるのか、みらいは一生懸命考えていた。その時に廊下でリズとすれ違った。リコは姉に大して嫌な気持があって下を向いて目をそらす。小百合に直接教えを与えていた姉が、自分のことなど忘れてしまっているような気がしてしまう。
「リコ」
 後ろから呼ばれ、リコは思わず顔を上げて振り向いた。
「ついに一番が見えてきたわね。あなたなら必ずできると信じているわ」
「お姉ちゃん……」
 リコの胸にこみあげてくる思いがあり、同時に涙が溢れてしまう。
「リコ?」
 リズが近づいてきて、心配そうに妹のことを見つめる。
 ――わたしはバカだわ。お姉ちゃんはこんなにも、わたしのことを見ていてくれたのに……
「その涙は少し早いんじゃないかしら」