魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「ヨックッ!」ヨクバールがぐらついて攻撃が途切れる。その隙にミラクルが突っ込んで固い氷の体にパンチ、その衝撃で丸い体のヨクバールが転がりだす。二人は素早く移動してヨクバールが転がってくる軌道上に立つ。そして雪玉のように転がってくる丸くて巨大な冷凍ミカンを、
『はあーっ!!』
二人同時の回し蹴りでヨクバールはピンボールのように弾き飛ばされ、ゴロゴロ転がってすり鉢型の中央広場に転げ落ち、猫の像の間近を通って凄まじい勢いで階段を転がり昇り、ジャンプ台の要領で空中に投げ出された。そこへ跳んでくるミラクルとマジカル、二人は両手を組んで背中の方まで腕を引き絞り、
『どりゃ―っ!!』
二人で同時に組んだこぶしをヨクバールの氷の体に叩きつけた。ハンマーで打ち壊すような強烈な衝撃でヨクバールは地面に叩きつけられ石床を砕いて体の半分ほどが地面に埋まった。そして、ヨクバールの氷の鎧に亀裂が入る。
「ヨクゥ……」丸型ヨクバールは目を回していた。
ボルクスはプリキュアの凄まじい力の前に驚きを越えて脱力して肩を落としてしまった。
「強すぎる、二人そろったら手が付けられん……」
その時、ボルクスの背後に巨大なものが落下して、ボルクスの体を下から跳ね上げるような衝撃が走る。巨躯のオーガが恐る恐る振り向くと、ウサギ型ヨクバールが目を回しながら倒れていた。
「げげーっ、これはフェンリルのヨクバール! どうなってるんだ!?」
ボルクスの目と鼻の先にある商店の屋根に二人の少女が現れる。その二人の姿を見てボルクスは脂汗が出てくる。
「お、お前らは、キュアダークネスとキュアウィッチ!」
宵の魔法つかい二人は目の前で大騒ぎしているボルクスの姿など見ていなかった。彼女たちの視線の先には赤き二人のプリキュアがいる。今再び、光と闇の魔法つかいプリキュアが交わったのだ。
「先に決めるわよ、ウィッチ!」
「ほいさ〜」
右にダークネス、左にウィッチ、二人は触れ合っている手を強くつないで後ろに引き、頭上でもう片方の手を重ねる。ダークネスのブレスレッドに薄ピンクのローズクウォーツ、ウィッチのブレスレッドには炎のようなオレンジサファイアが光を放った。
「あのリンクルストーンは!?」
マジカルが声を上げる。かつて小百合に見せてもらったリンクルストーンを、二人の黒いプリキュアのブレスレッドに見た。
『二つの魔法を一つに!』
ダークネスとウイッチがそれぞれの手で半円を描き、下でピンクとオレンジの光が重なり合た時、その2色で描かれた色鮮やかな月と星の六芒星魔法陣が輝く。ミラクルとマジカルは今戦っていることを忘れて、その幻のようにきれいな魔法陣を見つめていた。
『赤く燃え散る二人の魔法!』
二人は繋いでいるてにさらに力を込め、輝く2色の魔法陣に手をそえると、魔法の呪文を唱えた。
『プリキュア・クリムゾンローズフレア!』
ウサギ型ヨクバールが跳ねるように起きて跳躍し、ダークネスとウィッチに迫ってくる。二つの輝きを持つ魔法陣から焔を放つ花びらが大量に吹き出し、燃え上がる螺旋の衝撃にヨクバールが巻き込まれる。舞って燃える焔の花々はヨクバールを包み込むように渦を巻き、一気に天空へと昇華する。炎に包まれて宇宙へと向かっていくヨクバールはまるで隕石が逆行しているかのようだ。
「ヨク……バール……」
ヨクバールが宇宙に至ると緋色の無数の花びらが一瞬止まってヨクバールに収束し爆発する。ヨクバールを消滅させると共に炎は燃え広がり太陽のように強い光を放った。
ダークネスとウィッチの大魔法によって地上に光が降り注ぐ。ミラクルとマジカルは赤く燃え上がるような空を見上げて言った。
「すごい!」
「全く違う二つの魔法を合わせるなんて、そんな魔法が存在するなんて……」
空からふってきた闇の結晶とウサギのぬいぐるみをダークネスが高く跳んでいち早く確保する。戻ってきた彼女は屋根に着地すると、隣のウィッチに押し付けるようにしウサギのぬいぐるみを持たせた。ダークネスには油断がなく、ヨクバールを倒しても戦闘態勢を崩さなかった。
丸型ヨクバールが動き出し、アイホールに赤い目が現れてミラクル達を睨む。
「マジカル、わたしたちも!」
ミラクルの呼びかけに、マジカルが頷きで答える。
虚空にダイヤのリンクルストーンが輝く二つのリンクルステッキが現れてクロスする。ミラクルとマジカルはそれぞれのリンクルステッキを手に、
『リンクルステッキ!』
リリンと並んで戦いを見ていたモフルンの胸のルビーが激しい輝きを放つ。それに隣にいたリリンがちょっと驚いた。
『モッフ―――ッ!!』
モフルンのルビーから深紅の光線が放たれて大きな流れとなり、ミラクルとマジカルに接近する。二人が交差させているリンクルステッキのダイヤに深紅の閃光が衝突し吸い込まれる。凄まじい衝撃に二人は耐え切れず、リンクルステッキを持つ手が外へと弾かれた。その瞬間にダイヤがルビーに入れ替わり、マジカルが左手に持つリンクルステッキの星のクリスタルと、ミラクルが右手に持つリンクルステッキのハートのクリスタルに赤い輝きが灯る。
『ルビー! 紅の情熱よ、わたしたちの手に!』
二人はつないだ手を上へ、赤く輝くリンクルステッキをまっすぐにヨクバールに向ける。モフルンの胸のルビーがまた輝き、赤炎のような光が広がっていく。
『フル! フル! リンクルッ!!』
二人がリンクルステッキで描いた真紅のハートが一つに重なり、炎が渦となってハートに集まる。二人がリンクルステッキで上を指すと、燃え上がる深紅のハートは天に向かって撃ちだされ、後を追うようにミラクルとマジカルも跳び上がった。赤いハートは空中で五つに分裂し、並んで輪になり円を描く。空中でミラクルとマジカルがハートを踏み台にした瞬間に赤い五芒星魔法陣が現れ五つのハートと一体となった。垂直に立った魔法陣の上でミラクルとマジカルは身をかがめ、結んだ左手と右手を上に互いに強く握り合う。そしてリンクルステッキを前方で交差させて強き呪文を唱える。
「プリキュア! ルビーパッショナーレ!!」
二人が前へ飛び出すと同時に魔法陣から爆炎が吹き出し二人の姿は炎の中に消える。爆炎から矢のような一条の炎が突出し、その炎をかき消して真紅の光をまといし赤き乙女たちが飛翔する。そしてヨクバールは闇の波動をまとって突撃していく。真紅と闇が激突し、赤き乙女たちが闇を打ち払い、深紅の光を引きながらヨクバールとすれ違う。刹那に真紅が螺旋の帯となってヨクバールを包み込み、光のリボンを織りあげた。刹那にヨクバールは赤いリボンの結び目に封印されていた。
「ヨクバール……」
深紅に輝くリボンの長い帯が引かれると結び目が急速に収縮し、ヨクバールは凄まじいパワーで圧縮されて光のリボンが解けると同時に消滅した。2体のヨクバールが消滅したことで、破壊された街並みは元に戻っていった。
空から冷凍ミカンと闇の結晶が降りてくる。ミラクルとマジカルがそれを見上げると、ダークネスが跳んで闇の結晶だけをつかみ取った。
「ああっ!?」
マジカルが声を上げる。ミラクルの方は黙って悲しいような顔をしていた。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ