女体化ジルヴェスターの災難~ドレッファングーアの暇潰し~
帰還と記憶と秘密 2
それ程の魔方陣を破壊する魔方陣は果たしてどれ程なのか。下手を打てば、ジルヴェスターの肉体を外側・内側双方から壊す事にも成りかねない。そして、もう1つ気になる事項がある。
「ライムント、フェルディナンド様がこの魔方陣を作り上げたのは何時頃ですか?」
ローゼマインのグルトリスハイトを興味深く見ていたライムントは慌てて答える。
「あ、わ、私が手伝いを命じられた時には既に出来上がっていた様です。」
ローゼマインが眉を潜める。
(フェルディナンド様はアレキサンドリアに帰ったその日から、研究室に籠る様になった。そしてライムントはその日から呼ばれていた筈…。)
詰まり、フェルディナンドの頭の中では早々に、ジルヴェスターを女性にした魔方陣を思い付いていた事になる。幾ら何でも早過ぎる。
「ライムント、この魔方陣の実験は?」
「行っていませんし、そもそも何の魔方陣なのか、説明もありませんでした。」
ライムントは自身の知識で答えには気付いていただけだったらしい。
(と言う事は………、養父様を女性にした魔術具は、もしかしてフェルディナンド様が作った? それが事故で発動してしまった?
ううん、それなら過去のフェルディナンド様が何も言わないのは可笑しい…。もしかして事故じゃなくて態と? でも何の為に?
養父様は女性のままでも良いと言った。詰まり女性になる事を納得したんだよね。でも何故? 養父様にそんな願望があるなんて思えない。ユストクスじゃあるまいし。
万一養父様が望んだなら、今、フェルディナンド様が必死になるのは変だし…。)
ローゼマインの長考に答えるのは、沈黙しているライムントではなく、過去のフェルディナンドの言動。
(…もしフェルディナンド様に理由があったら? それも養父様を女性にしたい、我が儘な理由が。そしてそれを養父様が受け入れたとしたら? 過去のフェルディナンド様の我が儘を、今のフェルディナンド様が後悔している?)
あの時、過去も今も両方供、記憶が無くなると思っていた。蘇るなんて考えていなかった。どうせ忘れるならば、と思い切ったのでは無いか…。
ローゼマインはライムントと別れ、側近を引き連れ、アウブの執務室に向かった。
「突然すみません、養父様。」
アウブ同士による緊急連絡。
「どうしたのだ、ローゼマイン。何かあったか?」
「至急お伺いしたい事がありましたので。」
「ん?」
「養父様、お父様以外は下がらせて下さいませ。私もアンゲリカ以外を下がらせております。」
アンゲリカはどうせ難しい事は分からない。ローゼマインにとって、都合が良かった。
少しして、下がらせたぞ、と言う声が掛けられる。
「本当に養父様が悪かったのですか?」
「?」
「嘘を付いておりませんかと聞いているのです。」
「何を…、」
「夢の世界に、猫箱理論と呼ばれるモノがあります。そうですね…、此方風に言い直すなら、シュミル箱理論、でしょうか。」
「シュミル箱理論?」