女体化ジルヴェスターの災難~ドレッファングーアの暇潰し~
帰還と記憶と秘密 3
鸚鵡返すジルヴェスターに、ローゼマインは理解され易い様に考えながら説明する。
「フェアベルッケンの加護と祝福を賜わる部屋に、一匹のシュミルを触れると爆発する魔術具と共に閉じ込めて、部屋の扉を閉めて鍵を掛ける。扉を開ける以外の方法で、外から中を伺い知るのは不可能。」
「む…。」
想像しているのか、眉を寄せている。
「魔術具の爆発は小規模ですが、シュミル程度であれば、確実に高みに昇るでしょう。…爆発すれば。」
「それで?」
「シュミルが魔術具に触れれば、魔術具は確実に爆発します。しかし触れなければ爆発しない。」
何を言いたいのか分からないらしく、考えるのを止めたのか、聴く事に意識を切り換えている様だ。
「けれど部屋の中の様子は分からない。扉を開け放ち、観測者が観測しない限り、シュミルの生死は不明なのです。」
「まあ、そうだな。」
「扉を開けるまで、シュミルの生死は確率で表現されます。何割の可能性でシュミルは生きていて、残りの可能性でシュミルは高みに。
詰まり…、生きているシュミルと高みに昇っているシュミルが、共存していると言う事になるのです。」
「え、あ、そう言う表現で言うと、そうだな。」
「実際にはどちらかにしか居ないので、1つは只の幻想になりますけれど。」
ローゼマインの瞳がゆらりと揺れる。
「ヒルシュール先生のお部屋と言うシュミル箱の中で、2匹のシュミルは一体どんな会話をして、どの様な流れで例の魔術具を発動させたのでしょう?」
「え、」
「観測者が開け放たない扉の向こうに、嘘を吐いた養父様と吐かなかった養父様が共存しています。
扉を開けて、片方の幻想を消してしまうにはどうしたら宜しいのでしょう。」
「ローゼマイン、何を…、」
「沈黙を続けるフェルディナンド様ですが、過去と今では行動が違います。過去は静観しておりましたが、今は…、必死で養父様を男性に戻そうとされています。」
ジルヴェスターが目を見張る瞬間を確かに捉えたローゼマインが続ける。
「と言う事はエーレンフェストでは養父様が女性になって本当に良かったなあ、と言う想像も付かない状況では無いのでしょう? 多少、養父様の都合で女性であったままの方が良いかな、と言う理屈はあっても、それだけで男性に戻りたい気持ちを上回るとは思えませんし。…どうして…、男性に戻る事を諦めたのですか?」
「……………其方が気にする事では無いし、フェルディナンドを無理させる事でも無い。」
無意識、なのだろうか。ジルヴェスターが自分の下腹部を抑える。胃、では無かった。
「分かりました。フェルディナンド様には即効で無理な研究を止める様に進言します。」
名捧げを使うのは余り気が進まないけれど。そう心で呟いたローゼマインは通信を切った。