女体化ジルヴェスターの災難~ドレッファングーアの暇潰し~
罪と罰 1
通信後、物言いたげなカルステッドの視線を無視して、ジルヴェスターは執務を続けた。時折、下腹部に手が伸びたが、誰も気付かない。
護衛をしているカルステッドはジルヴェスターが何か何時もと様子が変わっていた事は解っていた。しかしそれは女性になってしまったからだと思っていたのだ。今日、ローゼマインの連絡が来るまでは。
(フロレンツィア様に相談するべきか。)
カルステッドはまずエルヴィーラに話をしてみようと、此方には打ち明ける気が無いらしいジルヴェスターを見遣りながら、そう考えた。
夜。自身の隠し部屋で、ジルヴェスターはある魔術具を取り出した。魔力を込めて、それを下腹部に当てる。浮かび上がる神の御名に、キツく目を閉じる。
あの日、あの時、ヒルシュールの部屋で、ジルヴェスターは自身の罪を知った。自分がどれだけ、フェルディナンドを傷付けていたのか、無知がどれだけ凶器になるのか、初めて知った。だから。きっと。
(この苦しみは…、私の罰、だ…。)
甘んじて受け入れなければならないのだと、ジルヴェスターは感じていた。
フェルディナンドと2人だけの部屋で、フェルディナンドはジルヴェスターに聞いてきた。
「私は…、エーレンフェストを出るのか?」
その不安は余程親しくなければ気付かないだろう。
「ああ。」
正直な話、ジルヴェスターはきっちりと説明する気は無かった。マインとローゼマインの説明から始める必要は無いにしても、色々とヤヤコシイ事があり過ぎる。ゲオルギーネ達の事も同じだ。芋蔓式に色々と出てくるので、最初から言わなければ良いと判断した。
大事な部分だけを伝えれば良い、と。
「元々は王命が理由だった。アーレンスバッハの中継ぎアウブと星を結び、次期アウブを養女に迎えよ、とな。」
フェルディナンドは怪訝そうな顔をしているが、不安は少し治まった様だった。
「其方が幸せになれると思えぬし、何より私が其方を必要としていたから冗談ではなかったが、致し方無かった。」
不安は薄らいでいく様だった。
「だが当時のアーレンスバッハには王族に反逆の意を持つ一派があり、あろうことか、その中心にいたのが其方の婚約者だった。証拠が明らかになれば、其方は連座で処分される。
それに真っ向から噛み付き、盤上をひっくり返したのがローゼマインだ。あの娘は其方を救う為なら、大領地も王族も神々さえも敵に回しても構わぬと、エーレンフェストを飛び出した。
…結果としてアーレンスバッハの礎を奪い、未成年ながらアウブになった。そして其方は…、自ら望んでローゼマインを守る為、王命を利用し、ローゼマインの婚約者に治まったのだ。
いやあ~、熱烈だろう、其方等は。あの娘はな、私に其方を必ず幸せにすると誓ったのだ。そしてその約束は守られている。
紆余曲折はあったし、不甲斐ない私のせいで、其方を不遇に追いやってしまった事もある。だが…、其方は幸せになる。愛する女神と、ローゼマインと共に幸せになる。その為にエーレンフェストを出たのだ、きっと。」
何も不安がる必要は無い、とジルヴェスターは言った積もりだった。だがそれが、フェルディナンドの砦を崩してしまったのだ。
「……どうせ忘れる…。」
「? 何か言ったか?」
小声で呟かれた為に聞き取れなかったジルヴェスターが尋ねるが、フェルディナンドは何も答えず、座っていた椅子から立ち上がり、そのまま移動に入る。
「フェルディナンド?」