女体化ジルヴェスターの災難~ドレッファングーアの暇潰し~
母性の意思 2
今更ながら、下腹部を押さえていた姿を思い出す。
「…どうする積もりだった? 私達に隠して、何をする気だった?」
「……流すしか無かろう…。」
視線を反らすジルヴェスターだが、こんな事態なのだから、判断は母親がするべきだし、また間違えても居ない。…お腹の子供を思えば、納得はしづらいが。だが問題はそんな事では無い。
「だったら何故、流していないのですか?」
ローゼマインが言い訳をさせる前に続ける。
「妊娠に気付かなかった訳では無いでしょう? 事態が事態なのですから、確認していた筈です。周囲には隠す積もりだった様ですし、降ろすならとっくにされていたでしょう?」
「そ、それは……、」
下腹部を撫でるその目が潤んでいるのを見れば、女であるローゼマインには直ぐに分かった。この場にフロレンツィアがいれば、実感を持っただろう。
「養父様…、流したく無いのではないですか?」
ビクリ、と震える。
「産みたいのでは無いですか?」
応えられず、俯く。
「お腹の子が愛しいのですか?」
フェルディナンドが苦しさの中、僅かに期待する様な顔になる。
「養父様、それを母性本能と言うのです。」
「母性…。」
ローゼマインが優しい顔で笑う。
「母親が産みたいと願うなら、それを優先しましょう。父親が産んで欲しいと願うなら、尚更です。」
家族が欲しいフェルディナンドが子供を流して欲しくないと想うのは予想が着く。只、ジルヴェスターに負担をこれ以上掛けたくないだけだ。
一方でジルヴェスターは、フェルディナンドとローゼマインの幸せを壊したく無いと思っている。だから産む訳には行かないと考えているだけだ。
「養父様もフェルディナンド様も産む、と言う願いがあるのですから、それに向けて、動きましょう。」
幸いフロレンツィアは元・大領地出身故に、第2夫人にも深い理解を示しているし、ブリュンヒルデに至ってはフロレンツィアを支える地盤や手腕を買って貰った訳で、争点になるだろうライゼガング系列になる子供は望まず、未だ冬を迎えていない事も納得している。
因みに子が出来ないに関わらず、大切にされていると誤魔化している状態だ。何処まで通じるかはともかく、その干渉を鬱陶しいと思っている。感情的に忌避する者が居ないのだ。
尚、フェルディナンドの子となれば、色々とアレキサンドリアの手助けが期待出来る。と、なれば煩わしいのは好き勝手噂する周りだけだ。だがそれも大領地としての社交能力がしっかりしていれば、問題はそうそう起こらないだろう。
…教育に力を入れながら、ローゼマインの影響を受けている世代に変わって行けば良い。彼等も我が子に取って変わられるなら、文句は無いだろう。
「まずは養母様とブリュンヒルデに謝罪ですね。」
ローゼマインの眸が商人モードになっていた。