神殿長ジルヴェスター(2)
「コホン、それで巫女になりたいのであったな。何故?」
「図書室があるからです。」
は?
「私は沢山の本があり、本を読める場所で働きたいと常々思っております。本日の洗礼式で神殿長が読んで下さった聖典や、沢山の本が納められている図書室と出逢えた事は神のお導きだと思うのです。ですから神殿長、どうかお願いします。私に図書室の本を読み尽くさせて下さい。」
……理解出来ぬ。私には理解出来ぬ。何故、そこまで本に執着するのだ?
「其方、字が読めるのか?」
「はい。まだ知らない単語は多いですが、本を読めば覚える事が出来ます。」
…何と勉強熱心な…。この平民の少女からはフェルディナンドに似た匂いを感じるな。うん、やはり私には理解出来ぬ。勉強から如何に逃げるかばかり考えていた私とは、思考の根本が違う。
「念の為に聞いて置くが、其方、孤児になるのは分かっているか?」
常識であるが、もし研究の為に寝食を忘れるフェルディナンドみたいな処がある7才なら、ウッカリしているかも知れん。
「孤児…?」
何故、首を傾げる? よもや忘れていたのではなく、知らなかったと?
「家族と繋がりを切り、神殿に入るとはそう言う事であるぞ? 其方、少々知らなさすぎぬか?」
少女の顔色が変わる。どうやら本格的に常識が分かっておらぬ様だ。私は平民が神殿にいる理由や、孤児の扱い、灰色が平民で、青色が貴族である事を説明した。
「…そうだったのですね。私は虚弱で倒れてばかりなので、余り物事を知らないのです。お話を聞く限り、私には無理みたいですね…。」
言葉は丁寧ながら、血の涙を流している様に見えるのだが、何故だ。
「虚弱? ただ具合が悪かったのでは無いのか?」
「はい、身食いって言う病気なんです。」
「身食い!!?」
「は、はい、」
何と魔力があると!! これは確かに神の導きかも知れぬ!!
「フラン、聖杯を持ってくるのだっ!!」
「かしこまりました!」
命じるとフランは早足で部屋を出る。残ったギル達が、他の仕事もあるからとこれを期に退去する。間もなく、フランが戻ってきた。
白い布に包まれている聖杯を少女に触らせると、強い輝きを示した。
「其方、名前は?」
…聞くのを忘れていた訳では無い。神殿に取り込むべきと分かったから、今、名前を聞くのだ。…本当だぞ。
作品名:神殿長ジルヴェスター(2) 作家名:rakq72747