神殿長ジルヴェスター(3)
「ベンノ、其方は最初にマインを引き立てた慧眼の持ち主だと報告を受けている。」
「勿体ないお言葉です。」
「其方の思うマインはどの様な人物だ? どの様に考えているのだ? 出来るだけ詳しく、具体的に教えて欲しいのだ。」
さて何と答えるか…。
「マイン様は天才でございます。特に新たな商品を生み出す点においては。
マイン様とは共通の知人を通じて出会いました。今は当店の見習いになっているマイン様の御友人、ルッツの斡旋が、マイン様の目的でございました。
正直な処、実際に会うまでは、話をするまでは軽く考えておりました。そんな私に彼を売り込む為に様々な話術を駆使されました。
植物紙を此方が決めた期限までに作るので、その状態を見て、雇うかどうかを決めて欲しい、と。それはもう洗礼式前の子供とは思えませんでした。
また、ルッツは職人一家の末子で、商人になる為の教育は全く受けておりません。にも関わらず、短い期間で最低限ですが、必要な教育をして頂いたので、当店で非常に良い働き手となっております。
マイン様御自身も計算能力や文章読解力に長けており、知人の話に依りますと、書類作業も並みの成人を越えると聞いております。
そんなマイン様ですが、弱点も御座いまして、それが頭脳同様、類い稀な虚弱さとそれによって生まれる社会経験の低さで御座います。
マイン様が持ち込んだ商品は、全てマイン様の頭脳によって生み出されていますが、実際に作り出すのはマイン様では御座いません。作るに当たって、体力が圧倒的に足りてないのです。その為、当店ではマイン様の発想を形に出来るルッツに頼っております。少し動いただけ、御気が昂っただけで、お倒れになるマイン様の体調を管理し、支え、お考えを理解し、新たな商品を作り出すルッツに。」
「成程。」
固まっているだけのルッツを連れている理由を理解した。これから神殿に勤めるマインに、何が必要なのか、このルッツから話を聞かねばならぬからだろう。
「マイン様は寛容でおっとりとした性格で、自身の才能にも余り自覚が御座いません。先程も申し上げた社会経験の低さから来る部分もあると思いますが…。」
「待て。社会経験の低さはともかく、おっとりで寛容? 本を前にした時の様子からは随分掛け離れている気がするのだが…。」
考えなしの言動はおっとりとも寛容とも取れなかったぞ?
「本を前にすれば、多様なる意味で突き抜けておりますから。…それだけ本はマイン様にとって特別なのでございます。」
む、何か嫌な予感がするぞ?
「ではもし本を粗末に扱うのならば…。」
「怒り心頭でしょう。ルッツが言うには本気でお怒りになられたマイン様は成人男性であっても恐れ戦くそうです。」
もしかして魔力が暴走して、威圧状態になっているのでは無いか?
「…本以外でその様になる可能性はあるか、マイン?」
「そうですね。家族関係であれば起こり得ると思いますわ。本以上に大切ですから。」
何故、髪飾りを触っているのだ…。もしやおちょくったのは不味かったのか?
作品名:神殿長ジルヴェスター(3) 作家名:rakq72747