神殿長ジルヴェスター(3)
「…分かった。心に留めておこう。
処でベンノ、其方の水の女神がマインであると報告を受けたのだが真実か? 随分とマインを大事にしている様だが、そう言う趣味があるのか?」
「はあああっ!!??」
思いっきり動揺しているな。ガチャガチャと食器がうるさい。
「どうなのだ?」
言い当てられた故の動揺か?
「…どうなのだ、と申されましても…。私自身、何故周囲がその様に言うのか…、理解出来ない有り様でございます。」
それとも本当に心当たりが無いのか?
「あの、恐れ入りますが、水の女神とはどの様な意味で使われるのでしょう?」
汚れ1つ無い無垢な瞳で聞くな、私は応えたくない。
………………………。
沈黙が痛い。ああ、やめろ、マイン!! フランに聞いてやるではないっ!! ああっ!! やはりフランが私に何とかしろと訴えて来る~っ!!!!!!
…仕方あるまい…。
「想い人、恋人、心を動かす者。一般的にはその様な意味で使われる。」
「……まあ神殿長。その様な事有り得ませんわ。ベンノ様と私は親子程年が離れておりますのよ?」
「マイン様の仰る通り、あり得ません。」
確かに洗礼式前後の子供と30目前の成人、と言うのは有り得ないと通常ならば判断されるが、18程度と40程度の成人同士であれば、そこまで珍しい訳では無い。
「親子程の差ならば珍しくなかろう。」
マイン、何故、キョトンとするのだ? 私の言っている事は間違っていないぞ?
「私の周りでは伺った事もございませんが…。そもそも成人同士であっても、親子程の年の差で結婚、となれば家族から白い目で見られますのよ?」
「そうなのか?」
「互いに初婚同士であれば、また変わるのかもしれませんが、大抵はお年を召した方にとっては再婚になりますもの。働き盛りの子供世代にとっては扶養家族が増えるだけなのですから。世間は甘くありませんのよ?」
ビックリだ。しかし良く考えれば平民は貴族と違って、複数の妻を持つ事も愛妾を囲う事も無い(富豪であれば話は別だが)。
上級貴族は勿論、下級・中級貴族であっても、旨味があれば第一夫人以外を持つ事もあり得る社会とは、価値観が違って当たり前なのだ。しかし…。
「ベンノ、何も知らぬ今の内に囲い混み、将来に備えるつもりか?」
「滅相も御座いませんっ!!」
「その様な光源氏的な発言をされるなんて…、まさかと思いますが神殿長ご自身に幼女趣味がお有りなのですか?」
「それは違うぞっ!!」
前半の意味は良く解らぬが、私に疑いが向けられたのは解った!!!!
「では御身内にでもその様なお方がいるのですか? 正直、それら以外でそこまでお疑いになられる理由が解りかねるのですが…。」
ぐっ!! 幼女趣味は居ないがっ! しかしっ!! 否定しづらいぞぅぅぅぅっ!!
…どうやらフェルディナンドの事があるせいで、必要以上に疑ってしまった様だった…。
「従僕の身で恐れ入りますが、発言をお許し願えますでしょうか? 」
「…許す。」
この空気を何とかしてくれっ!!
「旦那様の名誉の為に断言致しますが、一般的な意味合いで使われる水の女神とは異なります。
旦那様はマイン様が作り出す商品により、新たな事業を起こしております。長い間服飾のみの商売をしておりましたギルベルタ商会にとって、手放せない水の女神、それがマイン様なのでございます。」
「成程、良く解った。では続いて……、」
何とか軌道修正出来た。…凄く疲れたぞ。
その後は継続してマイン公房が生み出す利益の一部を寄付金代わりにすること、側仕えをフランとギルに任せる事(私の側仕えを貸し出す事)、ルッツによる、フランへのマインの体調管理方伝授が行われ、マインの初日を明後日に決定し、本日の会合を終えた。
…疲労困憊だ。だと言うのに…っ!!
「…何故また来たのだ…。」
「ふん、平民の小娘について、話をするために決まっているだろう。随分と奇異な子供の様だな。其方が言い澱むのも解る。」
おお…っ、まともな案件だ…。
「とは言え流石に夜も遅い。詳しくは明日にする。今夜はゆるりとさせろ、其方の部屋で。」
「私の感動を返せっ!!」
何故、未だに独身なのだ…。それほど私が良いのか…。優秀な弟に懐かれるのは嬉しいのだが、これは違う。私は'お兄ちゃん'以外にはなれんのだ…。すまん、フェルディナンドよ…。謝るから抱くのは止めてくれ!! …聞いてくれた試しも無いし、無駄な頼みかもしれんがそれでも頼むぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!!!!
作品名:神殿長ジルヴェスター(3) 作家名:rakq72747