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神殿長ジルヴェスター(5)

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 長椅子の上でマインが目を覚ましたのは早かった。威圧した事を直ぐに謝ったマインが、それでも此方を睨みながら、話を止めない。
「神殿長、何ですか、孤児院のあの惨状は!!」
「地階はそんなに酷いのか?」
 首を傾げる私に、マインは気を落ち着かせる為か、深い溜め息を吐いた。
「教えて下さいませ、神殿長。」
 アルノーとフラン、ギルにデリアが動揺している事には気付いていない様だ。
「何をだ?」
「神殿長は何故、孤児院を監督されないのですか?」
「? 監督しておるから食事を運んでいるのでは無いか。」
 何を言っておるのだ。
「私も孤児院に神の恵みを与えています。孤児院を監督している神殿長と監督していない私の違いは何ですか?」
「それは責任であろう。例えば其方は神の恵みを与えずとも、許される。しかし私はそうでは無い。」
「責任…、確かにそうですね。でも神殿長、食事だけでは孤児院を監督している事にはならないと存じます。」
 意味が分からぬ。
「どう言う意味だ?」
 眉根を寄せたマインはどう説明するか、考えている様に見えた。
「例えば…、私が孤児院の清掃についてお聞きした時の神殿長の御言葉は、把握していないと言う事だと解釈しました。」
 ふむ、間違っていないな。
「更に神殿長はその理由を、自分が過ごす場所ではないからと仰いました。つまり本心では孤児達に関心が無いのだと受け取りました。…孤児達に無関心なのに、監督していると言えるのでしょうか。」
 それは誤解だぞ。
「…側仕えになれば、嫌でも仕事があるのだ。飢えはしないとは言え、与えている神の恵みは十分では無いのに、命令して働かせるのは理不尽では無いか。増してはそこで生活する青色は居ないのだぞ?」
 …何だ、その呆れ返った様な眼は。
「良く分かりました。」
「? 分かったのなら良いが。」
 何となく響きが変だ。
「神殿長が人を駄目にする甘やかし方をなさると言う事が良く分かりました。」
 は? 
「マイン? それはどう言う…。」
「そのままの意味です。良いですか? 
 御自分で掃除されていればお分かりでしょうが! 神殿長に何処まで分かって頂けるか不安ですが!! 
 大抵の人にとって、掃除は面倒な事なんです。キレイ好きに見える人でも、掃除を面倒に感じているのは珍しくありません。で・す・がっ!!」
 やたらと入る力に、また気を失わないか非情に気になるのだが。
「清潔を保つ事は生活に必要な事です。衛生面が余りにも酷いと病気になる事もあるんです。神殿長が可哀想だからと好きにさせた結果、病気が蔓延り、それで死んでしまう子がいるかも知れません。それが正しい事ですか?」
「大袈裟過ぎる。第一、掃除の遣り方くらい、知っている筈だ。必要なら進んで遣るのではないか? 遣る必要が無いモノを命令されるなんて可哀想では無いか。」
 …何故、睨む。
「現実を認識して下さいっ!! そんな次元の話じゃありませんっ!! 
 神殿長は何が正しいのか分からない子供に自己責任を、正しい事が分かっていても、そこまで考える余裕が無い孤児に自立を求めているんですよっ!!!」
 それは当然では無いか。
「それは当然では無いか。」
 あ、思っていた事が口に出た。
「え…?」
「孤児を引き取るのは慈悲だから食事は与える。だがそれ以上を求められては困る。自立するのは当たり前で、その道が側仕えになる事なのだ。側仕えの道が開けるかは、確かに運の良し悪しもあるが、それ以上に本人次第だ。」
 何故、信じられぬと言う様な顔になる?
「細かく言うが、慈悲を掛けるから食事くらいは世話し続ける事が責任であるし、関心を持っているから可哀想だと思うし、理不尽な事はしないのだ。
 だがそれ以上は無理だ。義理も無い。寧ろ何故、私がそれ以上せねばならぬのだ? 何処に気に掛ける必要があるのだ?」
 …まあ青色が十分だった時は、実務で神官を纏める神官長と神殿組織を纏める神殿長に、孤児院を監督する孤児院長で協力し合っていたから、もっと細かな点まで行き届いていたのかも知れぬがな。…とても今では無理だ。
「孤児院で子供の世話をするのは、自立が出来る様に助けるのは、慈悲ではなく義務でしょう…?」
 何故、そうなるのだ。今度は私が眼を丸くした。
「義務である訳が無かろう。農民は食物を、農民以外は最終的に金銭で税を払う。だから守る価値のある領民と認められる。だが孤児はそうではない。領民でない者を救う義務等無い。
 …マイン?」
 手が奮えていた。
「…貴族あっての領民で、孤児は領民の内に入らないと…?」
 泣いていた。ハラハラと涙が溢れている。

 ゾクリ。

 身の内に衝動が走る。マインの色気に充てられているのだと知識が答えを弾き出す。
 けれど嘗てフロレンツィアに感じた衝撃と同じ種類であるとは気付かなかったくらいの弱さであった。
作品名:神殿長ジルヴェスター(5) 作家名:rakq72747