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神殿長ジルヴェスター(5)

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 マインと孤児院について話し合った翌日、その3日後に面会予約を取り付けられた。通算すれば4日後の今日、マインとまた話し合いの機会となった。
「神殿長、孤児院を私に任せて頂きたいのです。勿論、総監督である神殿長には詳細を御報告申し上げます。」
「其方はどうする積もりなのだ?」
「最終的に孤児院に居る子供達が自立して生活出来る様に致します。」
「それは今までとどう違うのだ?」 
 マインは強い瞳で私を見る。身の内にまた覚えのある感覚が生じる。
「今のままでは子供達が自立するのは難しいと思います。神殿長の施しだけでは彼等の生活基盤が整えられておりません。」
 マインの言葉が何故か耳にすんなりと入る。
「…続けよ。」
「青色を纏われる方が十分に居られた時機は、食が充分にあり、孤児院に居る子供達の心にも余裕が持てました。孤児院に食べ物を搬送する灰色の者達も、彼等の様子を見るゆとりがあった筈です。
 故に生活に必要な、最低基準が維持されて来たのです。衛生面もかなりしっかりとされておりました。」
「ほう…。」
 確かに余裕は大事だな。
「自立について、指導出来る者も居た筈です。上の者が下を教え、下が上に習う。人間関係もきっちりと構成され、それが巡って貴族に仕える者が育つのです。」
 理には敵っているな。
「ですが今はそうではありません。指導者は自分の事で精一杯ですし、下にとって習うべき相手ではなくなっております。生活の場はどんどん荒れ、暮らしていく内に家畜の様になっていくのです。」
 息を止めて、そして吐く。きっと緊張しているのであろうな。
「神殿長は貴族として、最低限の事をしておられると仰いました。ですが貴族ではない私には、それで終わりたく無いのです。ですから…、彼等の生活向上の為、私に孤児院を監督させて下さいませ。」
「そこまで言うなら構わぬが…、責任は持てるのか?」
 マイン自身が幼いのに、一体どれだけの事が出来るのか。まあ確かに大人びてはいるが。
「こう言っては何だが、其方の都合で無くなる施しなら、許す事は出来ぬぞ?」
 僅か数年でマイン自身の立場が変わる恐れがある。神殿に居なくなってる状態も有り得るのに、必要以上の施しはどうかと思う。何十年と続けられるなら話は別だが…。
「責任を持つ事は怖いです。でもあの汚い場所で御腹を空かせている子供達が、僅か壁一枚隔てただけの処で生きているのです。知らなかった頃には戻れません。
 家族と居ても、図書室で本にドップリ浸っても、気付くとあの光景を思い出してしまいます…!」
 図書室うんぬんはいるのか? いや、真剣さはこの上なく伝わるのだがな? 
「放っておいてもあの子達の生活は何も変わりません。けれど私が手を出せば、生活を向上出来るかも知れません。少なくとも神殿長が責任を持って下さる現状より悪くなる事はありません。
 それならば覚悟を決めます。決まらないでいても、私の心に平穏は無いのですから。…平穏が無ければ読書も楽しめないのですよ。」
 最後が無かった方が気持ちが伝わったのだが。うむ、やはりマインの思考は謎だな。
「話は分かった。覚悟があるならば認めよう。ただし私には総監督として、具体的な指針と行動を話して貰う。良いな?」
 マインの顔が明るくなる。
「まず最初に掃除を行おうと思います。理由は新たに孤児院長を迎えるから、では如何でしょう。」
「ふむ、良かろう。」
「掃除が終われば食事を与えようと思います。ただし報酬として。」
 報酬? 
「神の恵みではなく?」
「はい、子供達には仕事をすると言う事を学んで貰います。能動的に生きる為です。神の恵みが足りなければ、自分で食べ物を探せる様に。これは実地で外出する事を覚えて貰おうと考えています。
 そして仕事ですが…、彼等をマイン公房の従業員としたいと思います。」
「ほう…。予想以上に考えたのだな。…良かろう、やってみよ。」
 こうして、孤児院の大改造が成された…。うむ、この時はまだ先の事等、分からなかったな…(遠い目)。
作品名:神殿長ジルヴェスター(5) 作家名:rakq72747