神殿長ジルヴェスター(5)
マイン視点
孤児院に神の恵みを持って行こうとしていたら、神殿長とかち合った。そう言えばこうなるのは初めてだ。
「マイン、それは何だ?」
神殿長は興味津々だ。…ふふふん。
「神の恵みです。神殿長も今からですよね。私、今日は時間があるので、孤児院までフランと行って見ようと思うのです。」
「それは構わぬが…、そうではなく、神の恵みそのものが気になっているのだ。其方等は食事をどうしているのだ?」
「ベンノ様が用意した料理人にお願いしております。何れ食事処を作る為、私達の食事として試作して貰っているのです。今、此方にあるのはその残りですね。」
「試作…? 一体どの様な…。見せろ。」
「何なのだこれは…!?」
「秘密です。現在はまだお客様に出せる物ではございません。お気になるのでしたら、完成した暁にまた詳しいお話しを致しますわ。」
「うむ、絶対だぞ!!」
イタリアンレストランの初客ゲット(予定)!!! ベンノさん、やったよ!!
「処で神殿長と御一緒に孤児院に、で宜しいのでしょうか?」
「無論だ。行くぞ。」
こうして私達は並んで孤児院へ向かった――。…途中で持ち上げられたけど。
孤児院の中は丁度、私がマインになった直後の我が家を思い出させる汚さだった。
「神殿長…、ここの掃除はどうされているのですか?」
「適当にしておるのでは無いか? 私が住んでいる訳では無いからな。一々細かい事は言わぬ。」
思わず質問してしまったのは、麗乃時代からの衛生観念があったからだけじゃなく、神殿の中が清潔だったからだ。
…キレイなのは貴族がいる所だけなの?
口から出そうになる文句を我慢しながら、幼児が見当たらない事に気付いた。
「洗礼式前の子供はいないのですか?」
「確か地階にいる筈だ。上がって来れぬからな。彼等への食事は此処にいる女子の誰かが運ぶ。」
ん? もしかして神殿長、洗礼前の子達の様子は見てないんじゃ…。それで責任者なの?
「神殿長、私、地階にも行ってみたいのですが。」
「ん? ならばこの中の誰かに案内させるか。いや、側仕えのデリアにさせるか? 女子棟に私やアルノー達が行く訳には行かぬからな。」
「恐れながらマイン様、お勧めは出来ません。地階は青色の方々に御見せできる状況ではございません。」
ちょっと待って。まさかここより汚いの!?
「私もフランに賛成でございます。御祓をさせずにお会いになる等、御不快が大きすぎると存じます。」
私は血の気が引くのを感じた。
「いいえ、気になります。でも…、そうですね、倒れる可能性もあるので、出来たら力のある、成人に近い女性にお頼みしたいわ。」
こうして私は地階へ足を運んだのだ――。
進む毎に鼻を攻撃する、強烈な汚臭。思わず鼻を押さえた。
「あの、大丈夫でしょうか?」
心配そうな顔で言われたけど、私は繕う返事もせず、足を進めた。その先にあったのは…、幼い声だった。
「この匂い…? もしかして神の恵みっ!?」
弾ける様な声に、ムクリムクリと動く気配。
「えっ、ホントっ?」
「何か良い匂いっ!!」
勢い良く駆け寄る子供達は、小汚ない、なんてものじゃなかった。
「ごはん前には手を洗いましょう!!」
思わず出た言葉に子供達はキョトンとした顔をする。
のおおぉぉっ!! お願いだから寄って来ないでぇぇぇ!!
汚物まみれの空間に、私は気を失いそうだった。
地階から戻った私の頭に声が響く。
「マイン!! どうしたのだ!!? 青を通り越してるぞっ!!」
……うるさい。
「!! 駄目だマインっ!! フラン達を威圧するではないっ!!」
地階の惨状と目の前の声に怒りが沸き上がった。けれど感情の勢いに任せて、神殿長を睨み付けた時、倒れ込む様に膝を着いたフラン達に気付いた。
溢れ出す熱ー魔力ーを私は抑え、――そのまま気を失った。
作品名:神殿長ジルヴェスター(5) 作家名:rakq72747