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神殿長ジルヴェスター(7)

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 夕方から帰るのだが、送迎する予定のギルには神殿に留まらせると、私は騎獣を出す。
 目を真ん丸にしているマインを抱え、自分の前に股がらせて、空へ駆けた。
「ひゃああああっ!!!!!!」
「直ぐに其方の家に着く。掴まっていよ。」
 怖かったのか、私にしがみつくマインを宥める。
「こんな遣り方するなら、事前に言っておいて下さいっ!!」
「面倒だ。」
「酷いですっ!!!!」
 空の上で話しながら、私達はあっという間にマインの家へ辿り着いた。

 貧民層に下りるのは初めてだ。思う以上の汚さだ。顔を歪めぬくらいは簡単だが、この状況で育ちながら、清潔に拘るマインは本当に不思議な存在だ。
 騎獣を片付けているとアチコチから視線が
飛んでくる。貴族が珍しいのであろう。私は気にせずにマインと共に既に帰っている家族に挨拶した。
「ただいま、トゥーリ。あの…、」
「おかえり、早かった…、え?」
「突然、済まぬ。ギュンターは帰っているか?」
「トゥーリは会うの初めてだったね、此方は神殿長のジルヴェスター様。神殿を纏めている方で、神殿での私の保護役を引き受けて下さってるの。」
「つまりお貴族様!!?」
 全く以て優雅ではない仕種で驚いている。…優しい感じの美人だな。磨けば光りそうだ。
「トゥーリ!!」
 声が聞こえたのか、奥からギュンターが出てきた。
「中に入りなさい、…娘が不躾な事をして、」
「別に構わぬ。其方の娘は2人共美人だな。将来が楽しみであろう?」
 貧民が礼儀を知っている訳が無い。一々機嫌を悪くする等、バカらしくて発想も出来ぬ。
 …そう言う意味ではマインが異常だな。
「有り難いお言葉、嬉しく思います。」
「お父さん、デレデレしないでよ。」
 にやけた顔になるギュンターに、マインが叱っている。そのほのぼのした光景は心に癒しを与える。…これが平民の家族なのだな。ルッツにもやはり必要なモノだな。
「ギュンター、私がマインを送って来たのはルッツの家族と会うためなのだが、案内を頼めるか? マインは早く家に入れた方が良かろう?」
 虚弱なマインは何度か具合を悪くして、神殿に来られぬ時も多い。いきなり見知らぬ貴族が訪ねる訳にも行かぬだろうから、ギュンターに頼みたかったのだ。
「畏まりました、お気遣い有り難う存じます。お父さん、お願いね。」
 マインが来たがっていたが、体力的な問題があるからな、それは駄目だと予め言っておいた。
 そして私はマインの家の直ぐ隣へ向かったのだ。

 私の廻りにはルッツの両親と兄弟がいる。ギュンターは案内だけで帰らせたから、計6名が犇めいている。
 ルッツの父はディード、母はカルラ、長男がザシャ、次男がジーク、三男がラルフと言うらしい。
「突然済まぬな。其方等がルッツの家族で良いな?」
「ああ、そうだ。何だってアンタみたいなお貴族様が態々?」
 緊張を隠せない中、ディードが一家を守る様に私の正面から睨み付ける様に前乗りになる。此方も中々胆が座っている。
「マインから話を聞いてな。ルッツは私も会って話をした事があるし、放って置くのは気分が悪い。」
「あのバカがっ!!」
 突然、ディードが怒鳴る。かなりの声量で、他がビクリとなる。
「ディード、私はルッツが利発で、礼儀正しい少年だと思っている。あの年頃とは思えぬくらいだ。
 城に入るには早いが、神殿にいる青色神官や巫女なら充分に通じるだろう。」
 エグモンドの様な愚か者は別として。
「何故、ルッツを否定するのだ?」
「バカと言えばバカだっ!!」
 それでは分からぬ。成程、これでは会話が成立する訳が無い。
「私は其方と会うのは初めてなのだ。それでは分からぬ。説明せよ。」
「そう言われても…、ああ~、説明、説明…。」
 ガシガシと頭を掻いて、また口を開いた。
「アンタみたいなお貴族様を巻き込んで、こんな汚い処まで来させて、当人は居ない。この状況を作り出している時点でバカだ。」
「私がここに来たのは、マインからルッツの事を聞き出し、ルッツを放って置けなかったからだ。全て私の独走で、ルッツはマインが私に事情を話した事も知らない。それは誤解だ。」
「いや、まあ…。」
「更に付け足せば、マインにルッツの状況が伝わるのは当たり前の事だ。ベンノは2人を1組と扱い、大事な戦力と思っている。ベンノと其方等との間で起こった事は、全てマインの知る処になる。
 私がここに居る事、ルッツが居ない事、共にルッツに落ち度では無い。」
「…アンタはルッツとはそんな長い付き合いじゃ無い筈だ。マインを通じて知ったんなら尚更だ。何でルッツの為にそこまでしてやる? アンタはルッツの何を知っているんだ?」
「其方等程は知らぬ。只の私個人の見解だ。だが私の前にいるルッツは仕事用の姿を見せている。其方等の前で見せる姿とは違う筈だ。
 尤も仕事をしているルッツならば、ベンノの方が知っていようがな。」
「仕事している姿、か…。大したモンじゃないだろう。」
「何故、その様な事が言える? 其方はルッツが仕事をしている姿を客観的に見た事はなかろう? マインが言っておったが、職人職と商人職ならば、求められる資質もそれに応じる努力の形も違うのであろう? 
 其方等の前に居るルッツから、本当にルッツの技量を見極めているのか?」
「…そう言う事じゃない。」
「ではどう言う意味だ、説明せよ。」
「またか…。あ~、アンタは平民の事情が分からねーんだろう?」
「そうだ。だから詳しい説明が欲しいのだ。」
「…ルッツが働き出したのは洗礼後からだ。季節も変わっていない程の短期間働いただけの見習いが、大した事出来る訳が無い。」
「成程。しかしそのルッツを認めているのがベンノだ。遣り手の商人であるベンノの判断を認められぬと言う事になる。ベンノを信用出来ぬのは何故だ?」
「何故って…、当たり前だろう。」
「何故当たり前なのだ?」
作品名:神殿長ジルヴェスター(7) 作家名:rakq72747