神殿長ジルヴェスター(7)
…ルッツが…、言わなかったから…、
あの一言は頭に血を昇らさせた。瞬時に脳裏に流れた過去。
フェルディナンドの為に母を殺した。
フェルディナンドの為に白の塔に入った。
フェルディナンドの為に兄上のゲドゥルリーヒに甘んじた。
フェルディナンドの幸せを考えて、神殿に入った。
だがその全ては私の考えだ。フェルディナンドの心を受け入れぬ事も、フェルディナンドに体を許し続けている事も、…フェルディナンドを生殺しにしている事も、全て。
私の決断であり、甘さであり、弱さである。フェルディナンドの為だとしても、フェルディナンドのせいでは無い。
流石に…、エーヴィリーベの剣については、兄上にもフェルディナンドにも文句を言いたいが。
例え騙されたとしても、流されたとしても、私がした事は、或いはしなかった事は、私の責任だ。断じてフェルディナンドが負うモノじゃない。私の今はフェルディナンドのせいじゃない。
――断じて違う。
――弟は何も悪くない。
――兄の私が不甲斐ないだけだ。
夜空の空気を吸って、吐いて、頭を切り替える。今はそんな事を考える時ではない。
私は騎獣の速度を上げた。
ギルベルタ商会は既に閉まっている様だ。まあ時間を考えれば仕方無い。私は騎獣に乗ったまま、灯りが漏れる窓に向かった。
作品名:神殿長ジルヴェスター(7) 作家名:rakq72747