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神殿長ジルヴェスター(10)

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 私は知らず知らずに息を吐いて、力を抜いた。
「もうじき終わるよ。」
 ダームエル様が教えてくれた。
「あんな化け物と戦うなんて、どうなる事かと思いましたけど、予想以上に早目に終わりそうでホッとしました。」
 私が素直な気持ちを口にすると、ダームエル様は優しく言った。
「毎年の事だからな、人数が少なくても負ける事は無い。領主様が参加されたし、巫女見習いの祝福もあったお陰で、この早さで終わりそうだ。」
「お役に立てたのでしたら、嬉しく存じます。」
 優しい声に釣られて笑うと、忌々しそうな舌打ちが聞こえた。シキコーザだ。
「平民と馴れ合うのもいい加減にしろ、ダームエル。
 それは領主様や神殿長が甘やかして青を纏わせているだけで、身の程を知らぬ愚かな無礼者だぞ。私と同じ神殿育ちのエグモンドが嘆いていたのだ、平民のせいで神殿が汚れると。」
 エグモンドって、デリアの!? そんなネガティブキャンペーンしてくれたの!?
「全く神殿長も何を考えておられるのか、旧知のエグモンドの忠言も聞き入れず、無茶な仕事を押し付けて…。
 余程腹を据えかねたのだろう、エグモンドの嘆きはアチコチに伝わっているぞ。其方の家格の低さでは伝わらぬのも無理は無いが、その態度を即刻改めよ。」
 …マズイ。エグモンドとやらは相当私の悪口を仲間に吹き込んでいるみたいだ。無茶な仕事が何か知らないけど、愚痴った事が広まってるらしい。こう言うのは始末が悪い。
 …それにシキコーザの言葉からすると、ダームエル様は家格の身分が低そうだ。
 私はダームエル様が態度を変えるかもしれないと恐れる。それを感じ取ったフランが、私をそっと庇う様に体を寄せてきた。
「……シキコーザ、一体、何を言ってるんです? 領主様が特別だと仰ったではありませんか。その言葉より神殿の元・同僚の言葉が重いと言うのですか?」
 多少の迷いか、間があったけど、正論を言ってくれた。
 私は領主様が態々平民と周知した理由が私のネガティブ宣伝を抑える為だと知った。
 しかしダームエル様の正論は、シキコーザの怒りに油を注いだらしい。
「控えよっ!! 貴族の癖に身分差も弁えられぬのかっ!!!! そこを退けっ!!!!!! 先ずはその平民から成敗してくれるっ!!!!!!」
 シキコーザの手に剣が現れ、迫り来る。フランが私を抱き抱え、後ろに下がる。同時にダームエル様が前に出た。
「シキコーザ!! 落ち着いて下さいっ!! 領主様からの命をお忘れかっ!!!!」
 諫めようとするダームエル様と、怒り狂うシキコーザ。
「黙れっ!!!! 平民風情が魔力持ちとは生意気なっ!!!! 平民は貴族に脅えておれば良いのだっ!!!! 守る価値等無いわっ!!!!!!!!」
 どうしようっ!!? どうしたら良いのっ!!? ダームエル様の方が旗色が悪そうだし…!!
 その時、影が走った。反射的に空を見上げた私の視界に神殿長が映る。
「神殿長!!」
 シキコーザを抑えられるだろう彼に、私は助けを求めた。

 私を守る様に、直ぐ前に騎獣で着地した神殿長は、直ぐに現状把握に勤めた。
「何があった? 答えよ、ダームエル、シキコーザ。」
「そ、それが…、」
「身分を弁えぬ者達に教育しようとしたまでです。」
 悪い事をしたと思っていないシキコーザに、私は苛立ちを感じる。
「…続けよ。」
 シキコーザの延々と続く私への悪口と、ダームエル様に対する愚痴。ある程度の処で神殿長は打ち切って、ダームエル様に話を振った。
「ダームエル、其方の番だ。」
「はっ、巫女見習いに騎士団の戦いについて、解説をしておりました処、シキコーザが巫女見習いに平民は貴族に脅えていろ、と言う内容の暴言を…、抑えようとしたのですが、シュタープを出し、巫女見習いを傷付けようとしたので、私が前に出たのです。」
 簡潔に纏めたダームエル様の次はフランだ。
「フラン。」
「流れは仰られた通りです。私はマイン様を傷付けない為に抱えました。神具を手放して、」
「良い判断だ。」
 フランの言葉が終わらない内に、別の声が重なった。
「シキコーザ、私は巫女見習いを守れと命じた筈だが?」
 いつの間にか戦いは終わり、近付いてきた領主様が前に出て、仕切り出した。
「怪我は無い様だな。」
「ダームエル様とフランが守って下さいましたから。」
 神殿長と小声で短く言葉を交わすと、直ぐに前に出た領主様の背中に視線を戻す。
「し、しかし、それは平民で、神殿の秩序を乱す、」
「黙れ。確かにマインは平民だ。身分差は考えられて然るべき。よって処罰は其方1人とする。」
「…は?」
「追って沙汰を言い渡す。カルステッド、それで良いな。」
「はっ、ご配慮、痛み入ります。」
 …一応処罰してくれるって事かな。領主様は理不尽な人じゃない、って神殿長も言ってたもんね。
「お、お待ち下さいっ!! 何故っ、」
「言わねば解らぬか、愚か者。マインは魔力の多さを見込まれ、神殿が特別に青色を纏う事を望み、領主が許可を出したのだ。
 現在、エーレンフェストでは魔力が足りておらず、貴族の穴埋めを神殿が行ってきた。
 では神殿の穴埋めはどうしてきたか。これは私より神殿出身の其方の方が知っておろう、シキコーザ。
 神殿の穴埋めは、神殿長たる我が兄、ジルヴェスターが行ってきたのだ。兄上が必要としたマインが儀式を行うのは、兄上とマイン以外では不可能だからだ。神殿に十分な魔力があるなら、この場に態々連れて来る筈が無い。
 だからこそ、兄上は特別な存在であると知らしめる行動を取った。それを正しく受け取った騎士団長のカルステッドは、マインに護衛を付けた。万全を期す為に、私は更に言葉で念を押した。
 それにも関わらず、平民と言う一点だけしか見えず、与えられた命に背いた。
 それも唯の命令では無い。領主と…、領主候補生である神殿長に騎士団長…、このエーレンフェストで、尤も身分の高い私と、次点の兄上、更に第3位に等しいカルステッド…、3人の意が込められた命だ。身分差の教育だと? 其方こそ身分を弁えよ!!」
 領主様の主張はダームエル様の主張と同じ内容だ。その為かダームエル様が息を吐いたのが分かった。

 儀式の場へ出た。
「フラン、神具を。」
 フランから神具を受け取った神殿長と向き合う。
「これより土地の力を回復させる。まずは私が見本を見せる。マイン、良く見ておくのだぞ。」
「はい。」
「お待ちください、兄上。」
 そこへ声が掛かる。
「フェルディナンド?」 
「戦って魔力を使っている兄上が無理なさる事はありません。魔力も暇も持て余している者にやらせれば良いのです。…シキコーザ、前へ出よ。」
「はっ!」
「其方がマインの見本になるのだ。あれだけの事を言うのだ、マインより優れている自信はあろう?」
 …何だろ、蟻地獄を見てる気分なんだけど。
「はっ!」
 私を睨み付けてから、神具を持ったシキコーザが少し離れる。
「マイン、私とジルヴェスターが守る価値がある事を見せ付けよ。
 …安心しなさい、余計な事を仕出かしたシキコーザを出すのは、君の引き立て役をさせる為だ。私は勝てない勝負はしない。」