二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

神殿長ジルヴェスター(11)

INDEX|5ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 ダームエル様は奮闘しているが、数が違うし、多分、魔力量にも差がある。そこに父さんが加勢に入る。
 村人が何人か門の方向に走り去る中、ディードおじさんが父さんに続いて、加勢に入った。トゥーリと母さんは、カルラおばさんとザシャに連れられ、ルッツの家に押し込められる。ザシャは自分の家の前で仁王立ちしている。私の家の前にはラルフとジークが立った。
 どう見ても旗色が悪いのは私を助けようとしてくれてる人達だ。震えながら私は神様に祈りを捧げる。魔力放出の為に、貰っていた平民の中でも浮かない程度の指環に魔力が籠り、ダームエル様を祝福した。
 兵士達が来たのはこの時だ。門に向かって走り去った人達が連れて来ていた。
「この虫けらがっ!!!!!」
 怒りに満ちた声が響くと、魔力が迸る。何らかの攻撃魔術だ。倒れても立ち上がるダームエル様や父さん達を見ながら、私は領主様の言葉を思い出した。

 「これは君の自由を奪う魔術具だ。血判を推すことで発動し、私と君の契約が締結する。」
 愛妾契約の事だろうか? そんな疑問が顔に出ていたのか、領主様は溜め息を吐く。
「少しは感情を隠しなさい。これはそんな生易しいモノでは無い。恐らくジルヴェスターが知れば、君を想う余り、取り上げようとするだろう。だがこれが無ければ守れない事が起こるやも知れぬ。」
 ダームエル様にも隠すのは、そこから神殿長に伝わるかも知れないからだと言われた。

 服の中に隠れている契約の石を握る。私の自由を奪う契約。私が領主様の持ち物になるって事だろう。迷いが無い訳じゃない。でも、こんなに守って貰って無視なんか出来ない。
「痛いくらい、我慢しなきゃ…。」
 未来への不安を誤魔化しながら、私は道具箱からナイフを取り出す。
「えいっ!!」
 掛け声と共に人差し指を傷付け、お守りを取り出し、血が出ている指を押し付けた。
「助けて、領主様…!」

 どれくらい経っただろうか。突如、大きな魔力が迸るのが分かった。
「なっ!!?」
 魔力を持つ全員が気付き、魔力を感じた方向を見た。私も窓から確認する。何? 魔方陣? 
「バカなっ!! 何故、こんな処に転移陣がっ!?」
 そう叫んだ顔をハッキリと確認する。うわ…、ガマガエルみたい。
 そして転移陣と呼ばれたらしい魔方陣から、領主様が護衛と現れた。
 領主様はぐるりを見渡して、ガマガエルに向けて怒鳴った。
「其方、アーレンスバッハの貴族か!! 誰の許しを得て我が領土に参った!? 増してはこの有り様、侵略行為と見做す!! アウブ・アーレンスバッハに厳しく追及致すぞっ!!」
「我が領土、だと!? もしやアウブ・エーレンフェスト!?」
 どうやらガマガエルは領主様の顔を知らなかった様だ。随分と慌てているのが分かる。
「お、お待ち下さいっ!! こ、ここに許可書が!! 身食いの少女、マインを引き取る契約の為に私は、」
「黙れ!! 現在、我が許し無しに他領の貴族は入って来れぬ!! 特にこの領主会議の期間の来訪は一切許しておらぬ!!」
「そんなバカなっ、な、ならば私は騙されたのです!! この、エグモンドとその家族にっ!!」
 またエグモンド!? 
「エグモンド!? あの青色か!?」
 領主様の声に驚きの色が反映されている。
「バカなっ、あの程度に偽りの許可書を用意出来る筈が無いっ!!」
「ですが本当なのです!! 村に迎えに来るなら、強い魔力を持つ身食い兵をやると偽りの許可書と一緒に手紙を!! 侵略の意志等本当にございません!!」
 一瞬の沈黙があった。それがチャンスと見たのか、ガマガエルが続けた。
「その証拠に私は平民の村しか攻撃しておりませんっ!! 傷付けた貴族もそこの下級だけ…!! む、寧ろ身分も弁えず我々に歯向かった平民と下級を処罰すべきです!!」
 そんなっ!! 
「ふざけておるのかっ!!!!!!!!!!」
 私が余りの身勝手さに怒りを迸らせる前に、今まで一番大きな声が領主様から発せられ、周囲が静まり返る。

 …もしかして威圧してる? 

 静寂の中でカミルの泣き声が響いている。私はハッとして動いた。
 外に出て、カミルが泣いているからお願いとラルフに頼んで、急ぎ足で領主様の元へ向かう。
「マイン!」
「巫女見習い!」
 父さんとダームエル様が気が付いた。父さんが指の血を見て、止血しようと手を伸ばす。
「ルングシュメールの癒しを。」
 けれどその前に振り返った領主様が癒しを掛けた。指の傷が一瞬で治る。
 威圧を受けていた状態から解放されたガマガエルは驚いていた。
「なっ、平民ごときに癒しを!?」
 領主様はそのまま私の元へ近付くと、私を抱き抱えた。目を丸くするガマガエルに向かって言い放つ。
「其方は騙されたと言ったが、アレは上流貴族を騙す様な度胸は無い家だ。大方、エーレンフェストの情報を盗むのに利用していた処、エグモンドの愚痴が伝わり、マインの事を知ったのであろう。そして偽の許可書を用意した。もし不味い事が怒っても、エグモンドに責任を押し付ければと、態々青色に名前を書くように頼んだのでは無いのか?」
 領主様の言葉に顔を青くして、ガマガエルが否定する。
「決して、決してその様なっ、」
「まあ良い。どの道、其方の記憶を覗けば分かる事。」
「わ、私を罪人とするのですかっ、恐れながら何故、その平民の為に動かれると言うのですっ!!? どの貴族が聞いても納得しませんぞっ!!」
 平民を幾ら傷付けても罪にならない。貴族であっても下級ならば黙らせる。それが貴族界の常識だ。それに基づけば騙された、と言う主張を認めての無罪放免、更には逆に自分を傷付けようとした者として、平民を纏めて罰する、が正義になるのだろう。けれど。
「マイン、あのお守りを出しなさい。」
 この状況になった時の為に用意されたのだろう、この石がある。
「はい。」
 言われたままに服の中から、石を取り出す。
「ま、まさかっ!!」
 ガマガエルが絶望に染まる。
「見ての通りだ。私とマインの契約は既に成されている。」
 領主様が石に魔力を通すと、契約内容が空中に浮かび上がる。

 え…? 

 字を読めない人には状況が読めていないが、私やダームエル様はポカンとしてしまった。
「マインは最早平民ではない。我が養女だっ!!」
 ざわりと驚きに満ちた空気が蔓延するなか、事態に気付いた父さんが顔色を変えた。
「其方がした事は領主一族への攻撃と心せよっ!!」
 ガマガエルはそのまま膝を着いた。と、その時――、
「領主様!!? 何故此処に!!?」
 幾つもの騎獣が下りてくる。
「遅れて申し訳ございませんっ!! 馬鹿者っ!! 先ずはお詫びせよ!! 平民の村からのロートに気付くのが遅れました!! 平にっ!!」
 呼んだのはダームエル様だけど、領主様がいるのなら、領主様が呼んだに等しい。
「構わぬ、それよりこの男達を引っ立てよ! …私が記憶を読む必要がある故、それを念頭に置いて行動せよ。」
「はっ!!」
 あっと言う間にガマガエル達は居なくなり、馬車も騎士の誰かが乗って行った。
「ダームエル。」
「はっ、」
「この魔力差で良く守った。褒めて遣わす。」
「ははっ、恐悦至極に存じます!」