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神殿長ジルヴェスター(11)

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ラルフ視点



 ルッツが仕事に出掛けた後、俺達は残った兄弟揃って、朝飯を食っていた。朝飯を食った後はトゥーリや村の小さい奴等と一緒に森に行く予定だ。
 トゥーリはこの頃、森に出掛ける事が少ないので、俺としては今日は凄く楽しみだ。
「ここにマインと言う娘がいるだろう、畏れ多くもアーレンスバッハのビンバルト伯爵様が契約なさる為に足を御運びになられた! 即刻、前に出よっ!」
 突然、そんな声が外から聞こえてきて、俺達は顔を見合わせる。
「な、何だよ一体、」
「マインがどうしたってんだ?」
「またお貴族様かよ…。」
 混乱する俺らの側を、親父が早足で通り過ぎて、外に向かう。俺達は一瞬迷って、その後を追った。
「巫女見習いの家族に近付くな!!」
 ダームエル様、とか言うお貴族様が前に出ている。庇われているのは…、トゥーリ!! 
「領主様の留守を良い事に、侵略行為をなさる気かっ!」
「何を言う。許可書なら出ている。」
「そんな筈は無いっ! 領主様はご自分の留守中に、他領の貴族を決して入れぬと仰られたっ!! その許可書は偽者だっ!! 」
「何を証拠にその様な…、」
 愕然としている間にもダームエル様と気色悪い顔の貴族が言い合っている。
「其方はどうせ下級であろう。無礼者が。身の程を知るが良い。」
 そう言った瞬間、気色悪い貴族の家来が向かってきた。
「ロート!」
 ダームエル様が叫ぶと赤い光が空に飛ぶ。そして多勢無勢な戦いが始まった。

 マインを守るダームエル様とマインを奪われまいとするギュンターおじさんに、大工の父さんが加勢する。
 女の人は子供を集め、幾つかの固まりに別れて避難する。
 体格の良い男の人が参戦し、そこまでじゃ無い男は家の前に陣取るか、何人かは門に助っ人を呼びに行った。
 俺はハッとしてトゥーリの元へ行く。既にザシャが母さん達を家に押し込もうとしてる。
「マインがっ!! カミルもっ!!」
 トゥーリの悲痛な声に俺は叫んだ。
「任せろっ!!」
 俺はトゥーリの家の前に陣取り、マイン達を守る為に構えると、ジークも隣にやって来た。

 兵士達がやって来て、混戦が拡大すると、怒鳴り声が響いた。
「この虫けらがっ!!!!!」
 さっきから魔術らしきものが頻繁に飛び交っていたけど、それとは比べ物にならない程の攻撃だった。皆、吹っ飛ばされた。でも誰も諦めなかった。俺もジークもザシャもきっと怖かった。でもマインが連れていかれたら、トゥーリもルッツも泣くだろう。俺は震える体を叱咤した。

 ジルヴェスター様やダームエル様と同じ貴族だと言うのに…。

 何処かでそんな事を思った時、
「なっ!!? バカなっ!! 何故、こんな処に転移陣がっ!?」
 そんな叫びが聞こえた時、新たなお貴族様が現れた。

 マインがお貴族様になった。何と次の領主様かも知れない。訳が分からない。
 あの後、マインが魔術を使った。訳が分からない。
 虹色の綺麗な光で皆の怪我が治った。訳が分からない。
 …マインの葬式をした。訳が分からない。
 でも多分、一番理解出来ないのは、あの場に居なかったルッツだ。
 ルッツの話では、マインの光はギルベルタ商会にまで届いたらしい。何の光か分からなくて、その場に居て一緒に光を浴びた上司2人と首を傾げたとか。 
 そこにギュンターおじさんが来て、いきなり事情を聞かされたのだから、そりゃあ混乱するだろう。でも俺は何を言って良いのか分からない。
「……………。」
 黙々と歩いている内に神殿に着いた。普通は灰色が出てくるんだけど…。出てきたのはジルヴェスター様だった。既に用意していたメダルをギュンターおじさんに手渡す。
「すまぬ…。」
 平民に謝ってくれるお貴族様なんかいない。俺達家族にとって、ジルヴェスター様がどれだけ有り難い存在だったか、初めて気付いた。
 ジルヴェスター様がギュンターおじさんを引っ張ると肩を抱いた。驚いたと同時に、マインを抱き抱えた領主様と重なった。
「本当にすまぬ…。」
 ジルヴェスター様はもう一度謝って。そして離れ、中に入っていった。ギュンターおじさんがその後ろ姿を見送った。