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神殿長ジルヴェスター(12)

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 私の護衛でずっと側にいたカルステッドとユストクスを引き連れ、神殿に戻り、エグモンドの部屋に入った。無論、最初に入るのはカルステッドだが。
「なっ!!」
 驚いたカルステッドの声を聞きながら、私も入室する。開けっ放し窓のお陰で臭いが籠っておらず、逆に気付かなかったのだが、そこには血塗れの部屋となっていた。エグモンドと彼の灰色の遺体が散らばっている。
「ゲオルグ様と同じ…!?」
 話に聞くだけで、見た事も無かった私だったが、カルステッドの言葉の意味は直ぐに通じた。兄上の死に様と同じ――、無理心中だ。
 
 ダンッ!!!!!!!! 

 思わず壁を殴った。カルステッドが目を剥いて、力付くで押さえて来る。
「落ち着けっ!!!!」
「煩いっ!!」
 じんじんと手が熱い。最初の一撃で皮膚が切れた様だった。だがそんな事はどうでも良かった。
「!!!!」
 瞬間、壁を通り抜けて、光が入ってくる。それは私の上で弾けて舞う。一瞬、呆けてそれを見つめる。気が付けば、手の傷が癒えていた。
「マイン…?」
 祝福だと直ぐに解った。
「…惨状をアウブにお伝えましょう。後始末はそれから、私がやります。」
 ハッとした。
「…ユストクス…、其方は何処まで噛んだのだ?」
 無駄と分かっていながらも聞いた。
「私はアウブのお心に添うておりますから。」
 返ってきたのは答えとは言えなかった。
「フェルディナンド…、何故…?」
 …私は確信してしまっていた。総てフェルディナンドの手の平であった事を。だから私に知らせず、マインを助けに行ったのだ。

 …そもそも他領の貴族を徹底的に入らせない様、門の兵士もピリピリしていた筈の期間に、浸入されたのは何故か。

 許可書が偽者では無かったからだ。

 本物の、領主の用意する特別な許可書がある。他領の貴族を制限した時に使用すると決めた物で、その証明も出来る許可書。
 それにエグモンドの名前を本人が書いていたとしても、代筆は珍しい訳では無いので、平民の兵士は通して良しと判断するだろう。

 では本物の許可書をどうやって用意した? 

 そんな事はエグモンドやその関連者には不可能だ。
 エグモンドの家族が、それを出来る様な上流に頭を下げ、領主にも神殿にも見つからない様に、この領主会議に事を起こす、そんな危険度の高い事を誰が遣りたがる? それも内容は他領に高い魔力の保持者を売り付けると言う物。今の魔力不足なエーレンフェストでは何の特にもならない取引等。

 …誰が遣るものか。

 エグモンドが…、関わった者が死んでいる。恐らくは例の伯爵も直ぐに。そうして事件の真相は解らず、その内風化する。
 …これはフェルディナンドの策略だ。マインを自分の所有とする為の策略。それもマイン自身に憎まれず、感謝さえされる策略。
「何故だ…、何故、マインを家族から引き離す…!」
 聞こえぬ筈のギュンターの嘆きが、叫びが、脳裏に響く様だった。