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神殿長ジルヴェスター(12)

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 亡き父上の別宅。アウブに引き継がれたソレは、現在はフェルディナンドのモノだ。
 連れ帰ったものの、神殿もまだまだバタバタするし、城に連れて行く訳にも行かない。だからだろう、マインはここで休まされた様だ。
 本人不在でこれからについて、話が成される。設定を決めると言う事だろう。
「まずマインの身分だが、領主候補生にするには、平民出身の事実が邪魔になる。故にカルステッドの娘として、洗礼式を行う。あの小ささだ、誰も疑うまい。」
「1年先に洗礼式でも問題なさそうですしね。」
 ユストクスの相槌が煩わしい。
「マインはローゼマリーの娘で、その存在で家庭内の争いが大きくなる事を怖れたカルステッドが神殿に隠し、身分を明かさなかった。その為に周りに平民と誤解され、本人も誤認していた。
 神殿長であるジルヴェスターも真実を知らずにいたが、類稀な魔力に気付き、庇護していた処、マインは孤児院の惨状に心を痛め、救う為に奔走し出した。
 その結果が領主である私の耳にも届き、その注目度が高まっていた。そこに他領の貴族に狙われると言う事件が起き、カルステッドがとうとう真相を話した、と言う筋書きだ。
 ただローゼマリーの娘であるとは発表しない。色々と煩くなるからな。よって母親役はエルヴィーラだ。
 カルステッド、其方は彼女に真実を全て話し、全力での協力を依頼せよ。」
「はっ!」
「そして洗礼式の日に、マインとの養子縁組を発表すると言う事か。随分と用意周到だな。」
 感情を乗せぬ言葉から起伏が抜けていた。
「何事も根回しが必要だろう?」
 それに対し揺れもせず、薄っすらと微笑む姿はアウブとして非常に心強い。フェルディナンドがアウブになった事は、エーレンフェストにとっては良い事だ。
 …吐き気がする。全てを知りながら、マインを救わない事を納得出来る事に。救う事を諦めている事に。
 …ギュンターの様にはなれぬ。すまぬ、マイン。
「それからジルヴェスター、その洗礼式に合わせて還俗せよ。」
 何…!? 
「還俗!!??」
「還俗を発表後、私からの命令で其方には神殿業務を引き続きマインと共にこなして貰う事にする。」
「待て、意味が分からぬ。何故、還俗の必要があるのだ。」
「マインとの婚約の為だ。」
「はあ!!?」
「其方はマインに愛妾にしてくれと言われ、頷くくらいだ。特に問題はあるまい。マインと結婚しろ。」
「なっ、」
「最後になったが、マインはこれよりローゼマインと改名する。以上で終わりだ。
 私はこれから記憶を読みに行く。エックハルト、伴をせよ。」
「はっ!」
「ユストクス、エグモンドの遺体の片付けは任せる。」
「はっ!!」
「ジルヴェスターは明日、ギュンター達の相手をせよ。」
「待て!! フェルディナンド、説明しろっ!! 其方はどう言うつもりだっ!!!!」
 私はフェルディナンドの腕を掴む。エックハルトが視界の端で動き掛けたが離す気は無い。フェルディナンドが手を挙げ、エックハルトを制する。
「今、言わなければならぬ事か?」
「急ぐ理由等無かろう。寧ろ魔石になっていても構わないのだろう?」
 既に魔石化が始まっていたエグモンドの様に。
「具体的に、魔術的に其方がやった事は分からぬ。寧ろ、それはどうでも良い。私が知りたいのは動機だっ!! 其方は何をしたいのだっ!!」
 私はマインを助けない。だからこそ、知っておかねばならない。この場所が、せめてマインにとっての地獄にならぬ様に。せめてマインが家族の次に、本の次に守りたいと思える場所となる様に。
 …それくらいには愛しさを覚えられる程の安らぎを与えられる様に。
「ジルヴェスター…、私はな。」
 フェルディナンドが嗤う。嘗ての兄上の様に。
「其方もマインも愛しているのだ。」
「な、に?」
 それは理解出来ない響きだった。
「私はマインの記憶に触れ、嘘偽りの無い愛情を知った。マインに抱き締められた時、その愛情を綴じ込めたいとさえ思った。
 そして初めて…、其方に抱き締められた。」
 抱かれても想いを返せなかった私は、確かにフェルディナンドを抱き締めた記憶は無い。
「あの時、考えたのだ。其方はどうしても私のモノにはならぬ。マインも平民の暮らしを望んでいるのだから、決して私を求めはせぬ。」
 フェルディナンドの手が、腕を掴む私の手に重なる。
「だが其方等2人を私は所有したい。だから何処にも逃がさぬ術を考えた。」
 手が登り、頬に触れられる。
「其方等を吹雪に綴じ込める方法を。無意味に抱くよりも…、ずっと建設的な方法を。」
 体が震える。血の気が下がったのが分かる。
「……狂っ…、てる…。」
 それは怒り故か、恐怖故か。
「何を今更。」
 頬から手が離れ、腕を掴む私の手をそっと外させる。
「私はずっと狂っている。故にずっと其方に縋り付いていたでは無いか。其方は抱き締めてはくれず、だからと言って、突き放しもしない。1人で立たせる術も探せず、ずっとずっと無理に支えていたでは無いか。」
 本当に可笑しそうに笑う。
「とうとう支え切れなくなっただけであろう。」
 …ああ、その通りだ。そうしてフェルディナンドは崩れ落ちたのだ。

 マインを、巻き込んで。

 頭を抱え、自分の浅はかさに嘆く。何時も私は後手に回る。全てはもう遅い。
 私に出来る事は、闇のマントを広げるだけ。マインの視界と凍えを塞ぐ為に。ここがエーヴィリーベの檻の中だと、気付かせぬ様に。