神殿長ジルヴェスター(12)
カルステッド視点
私はカルステッド。騎士団長を勤めている。ジルヴェスターが白の塔に入った時、私をゲオルグ様が取り立てて下さった事で、被害は0に等しかった。しかしその分、ゲオルグ様の異常な行動に気付く事になった。
毎日の様にジルヴェスターに会いに行く為、本当はゲオルグ様がジルヴェスターに命じて、母親を殺させたのでは無いか、と如実に噂される様になった。自分に尽くしてくれた弟を何れは出すつもりだと、真しやかに囁かれていた。
ジルヴェスターの護衛でもあった私を傍に置いていた事も噂に拍車を掛けた。その中で私は気付いたのだ。ジルヴェスターの事を語る時のゲオルグ様の声に。普段は完璧に押し隠している欲望に。
気付いた瞬間、悍しい事実を確信した。ジルヴェスターに何を言ったのか分からない。だがゲオルグ様の気持ちが、ジルヴェスターを地獄へ落とすモノだと断じるのは、余りに簡単過ぎる事だった。
その頃、フェルディナンドはまだまともだったと思う。純粋に兄を慕う弟だった。
彼はジルヴェスターに何があったのか、ずっと気に掛けていた。ジルヴェスターの起こした事件で、フェルディナンドは大きな安寧を得た。
そしてそれに伴い、良くも悪くも無関心だったゲオルグ様が、フェルディナンドに重きを置く様になった事もあり、フェルディナンドも何らかの関係があると噂が広まった。
故に真相を知りたがるフェルディナンドは独自に調べていた様だが…、結果は余り芳しくは無かった様だ。
それがある時、劇的に変わった。その変化が何であるかは分からない。だがジルヴェスターを慕う気持ちに狂気めいたモノが混じる様になったのだ。
そしてゲオルグ様が高みに昇り、ジルヴェスターが白の塔から出された時、その所有印が残る体を見て、愕然とした。癒しを掛けたい気持ちを抑え、そのままの姿の報告をした。
その後、フェルディナンドが癒しを掛けたのだが…。2人の関係は元とは大きく変わりすぎた。
ジルヴェスターは兄も弟も、自分のせいで人生を狂わせたのでは無いか、と思っていた様に感じる。死んだゲオルグ様より生きているフェルディナンドに、罪悪の気持ちが強くなった様だったが、それはフェルディナンドが庇護する弟だったからかも知れない。
逃げる様に神殿に入ったジルヴェスターだったが、フェルディナンドは追い掛ける一方だ。神殿の現状を理由に、何とか呼び戻す命令を出させなかったが、危うい均衡はずっと続いていた。
変化が現れたのはマインがジルヴェスターの前に現れてからだ。どうやら随分嫉妬していたらしい。
理不尽な事をする事は無かったが、引き離したいと言う気持ちは明らかだった。
そのマインが襲われた。私達は後始末まで情報を与えられなかった。その理由は…、とてもでは無いが正気と思えぬ事。
エックハルトやユストクスは何処まで知っていたのか…。あれでも何ら忠誠心に曇りが無い事が信じられない。
ハイデマリーは女性である故に、流石に事を知られるのはジルヴェスターが憐れすぎると教えられていないから判るのだが。
それでもフェルディナンドがアウブとして実力が申し分無い事は言うまでもなく、故にマインはローゼマインから逃れられない。
アウブの命で動く私が神殿へジルヴェスターを送った後、家に帰り着いた時、どんな顔をしていたか、良く分からなかった。
作品名:神殿長ジルヴェスター(12) 作家名:rakq72747