神殿長ジルヴェスター(13)
動揺している間に、流れ漏れる魔力量が増えていく。このまま行けば枯渇する…! 確信したのは私だけでなくローゼマインもだ。彼女はフェルディナンドの胸に手を置いた。
「ここです! ここから魔力が漏れています!!」
言いながらローゼマインは自分の魔力をフェルディナンドに押し付ける。同質の魔力故に反発無く受け入れられているが、出ていこうとする魔力を中に押し込めるのは、魔力の圧縮に似ている。瞬時に気付いてゾッとする。
圧縮仕切れず、外に出ようとする魔力をそのままにすれば、肉体を食い破る。フェルディナンドに傷1つ無いが、それ以外はまるで同じだ。つまり高みに昇るかも知れないと言う事。私は必死にフェルディナンドに何が起こっているのか、頭を働かせる。
胸から流れ出る…? 胸は最終的に魔力が固まり、魔石になる部分…。発光が魔力が活発に流れているからだと仮定すると…!
まさか、フェルディナンドは今、魔力が胸に流れ込み、固まる筈の状態では無いのか!? それが流れが活発過ぎて、凝固が上手く行かず、外に流れているのでは無いかっ!?
何故、傷1つ無いのかは分からぬが、とにかくこれはまるで、大きな穴が空いている花瓶から水が流れ出て行くのを、空にならぬ様に新たに水をローゼマインが灌いでいる様なものだ。なら私がやることは、花瓶の穴を塞ぐ事!
同種の魔力を持つローゼマインでは、恐らく花瓶の穴は防げない。だからこれは私しか出来ない。フェルディナンドの魔力の流れを見る時間は無い。やっていれば、流石にローゼマインの魔力が枯渇するだろう。…感じるしかない。魔力を流しながら。
私は息を吸い込む。
相手の体内に魔力を制御しながら流し込む方法で、効率の良い方法は1つしかない。私はフェルディナンドの口を開かせ、口付けて一気に魔力を流し込み、出て行こうと流れる場所で固めていった。
…どれくらいそうしていたか…。魔力の流出が止まった。私は口付けを止めて、姿勢を変える。ローゼマインも胸を抑える手を外した。…呼吸はしている。
「エックハルト、ハイデマリー、ユストクス、大丈夫か?」
カルステッドが3人に尋ねる。まだ顔色は悪いが、苦しさはなくなって様だ。
「あああっ!!?」
野太い悲鳴が聞こえた。先程手を貸してくれた、ダンケルフェルガーの騎士だ。弾かれた様に視線を戻す。
「フェルディナンドっ!!?」
そこにフェルディナンドは居なかった。
「あ、赤ちゃん!?」
そこにはフェルディナンドの服に包まれた赤ん坊が居た。
急遽、領主会議を欠席した。代理にはボニファティウスに願い出、エーレンフェストに帰ってきたのだが。
「この赤ちゃん、養父様ですよね…。」
「多分。」
名捧げ組みが無事である事を考えても、そうとしか思えぬ。だが…、
「大人に戻るのは何時になるのでしょう?」
「分からぬ。」
前代未聞だ、こんな事。…翌日くらいに何事も無く、戻っているのか。それとももう1度成長をやり直すのか。…私にどうせよと!? グリュックリテートよ、何故この様な試練をお与えに!?
「フェルディナンドが明日には元に戻っています様に!! 神に祈りを!!」
「ジルヴェスター様!! 取り合えず眠っている赤ちゃんを起こすのは止めてくださいませ!!」
…2人共、煩いと追い出されるのは直ぐ後の事である。
作品名:神殿長ジルヴェスター(13) 作家名:rakq72747