神殿長ジルヴェスター(14)
ローゼマイン視点
貴族院3年生になった頃。私はヒルシュール先生に呼び出された。
「ローゼマイン様、ご紹介致します。此方、中央騎士団長のラオブルート様でございます。」
「ローゼマイン様ですね、あのフェルディナンド様の御息女、ずっとお会いして見たかったのですよ。」
彼は養父様を知っている様だ。…私が養女だって知っているよね。
「彼女は養女でございますわよ?」
「存じておりますとも。しかし数々の伝説を思いますと、実子以上の養女と言えましょう。」
ヒルシュール先生の念押しも無意味だ。…寧ろ酷い。笑顔を引き攣らない様に気を付けなきゃ。
「お褒め頂き、恐悦至極でございます。」
「いやいや、私は事実を申したまでで…。処でお養父様との秘密の思い出話がございましてな、申し訳ないが、側近を後ろに向かせて貰えないでしょうか?」
軽く言ってるけど、盗聴防止の魔術具が重さを物語っている。私は頷く。
「畏まりました。」
「さて…、では此方を見て頂けますかな?」
契約魔術だ。内容は今から話す内容は他言無用である事。それだけだ。でも領地関係無しに発動するものだ。
…ちょっと待って!! こんなの迂闊に頷けないよっ!!
「申し訳ありませんが、内容が分からない事で契約は出来ません。」
「…グルトリスハイトについてです。」
それって王族しか読めないって言う本!!
「読ませて下さるのですか!?」
「その方法についてお話したいのですよ。」
何と!! 嘘みたいな話じゃないかっ!!
「ですが大っぴらに出来る事ではなく…、なのでこの契約を。」
もしヒルシュール先生が研究に戻っていなければ、きっと私は何も知らないままでいただろう。そして甘い罠に囚われて、無知なままマインへと還っていったのだろう。
ジルヴェスター様の優しい虐待に、この身を全て任せて。
…まあ考え無しと言われても否定出来ないけどさ。私は差し出された契約に同意した。
ラオブルート様はにこやかに語った。
「実はですね…、現在、王族はグルトリスハイトを持っていないのです。」
「ええっ!!?」
「驚くのも無理はありません。情けないお話ですが、魔力量も属性も足りないのです。」
え、って事は王族であっても必ず読めるモノじゃ無いって事?
「現・ツェントが次期ツェントにグルトリスハイトを譲ろうとしたのですが、上手く行かなかったのです。当時は原因が解らず、古い資料を読み漁りました。その時、現・ツェントの持つグルトリスハイトが偽物である事が判明したのです。」
えっと、つまり…。
「代々受け継いできたグルトリスハイトの受け渡しが上手く行かなくて、原因を探ってみたら、そもそもグルトリスハイトでは無かったと言う事ですか?」
「その通りです。」
私の確認に、ラオブルート様は力強く頷く。
作品名:神殿長ジルヴェスター(14) 作家名:rakq72747