神殿長ジルヴェスター(14)
「それはもう、あの当時の焦りは半端ないモノが御座いました。何時から偽物だったのか、本物は何処にあるのか。…幸いにして貴族院の何処かにある、と言う事が分かりました。ですが誰が、どうやって探すのか、また受け継がれない、偽物のグルトリスハイトはどうすれば良いのか、直ぐには答えは出ませんでした。
しかしその内、この様な偉業は常人には不可能、規格外な天才と名高い貴族院の生徒と契約し、探して貰おうと言った意見に収拾されていったのです…。」
え? まさか依頼される??
「そうして私が命じられ、貴方のお養父様と接触したのです。」
なーんだ、養父様の事か。そうだよね、私は養父様程じゃないよね。
「貴方のお養父様は快く引き受けて下さり、本物の在処を探し当てられたので御座います。」
おお…! 養父様スゴい!! 流石元祖・規格外!!!!
「そのお蔭で色々と判明したのです。グルトリスハイトは魔力量は勿論ですが、全属性でなければ手に入れる事が出来ないモノである事、神より与えられ、シュタープで写し取るものである事、正式な名称はメスティオノーラの書と言う事等…。
しかし神々の叡知と呼ばれるだけあり、全ての知識を手に入れる事は不可能です。そこである時代のツェントが魔術具としてのグルトリスハイトを創りました。その後を継いだツェントは、新たに自分で手に入れた知識があれば、それを魔術具としてのグルトリスハイトに付け足されて行きました。
しかし当時はグルトリスハイトを持つ資格は血筋に寄るモノではなく、魔力に寄るモノ。そしてツェントの資格はグルトリスハイトを持つ者…、結果、複数のツェント候補が現れ、争いが起こりました。」
うわあ…、ユルゲンシュミットの戦国時代って感じだね。競い合う相手がいること自体は良い事だと思うけど、ルール無用の長物になるのは頂けない。
「争いを制したツェントはこの様な争いを防ぐ為、王族を作り、一族以外がグルトリスハイトを手にする事を反逆と見做し、禁止したのです。」
徳川家康が家は長子が継ぐって決めた話と良く似ている。現代日本でも名家とか旧家とかはそう言うのを引き継いでいるらしいし、人の権力欲って怖いなあ。
ライバルが居ない状態は、余り奨励出来ないけど、戦争が起こる程フリーダムになるくらいなら、傀儡の方がマシ…、なのかな? 自信ないけど。
「しかしそうした状態がやがて魔力の質を低下させて行った様なのです。
そうしてある時代、遂に属性が足りないツェントが立つ事になり、属性が足りなくても扱える新たな魔術具、グルトリスハイトが作られました。…結果、メスティオノーラの書は不要とされ、偽物が王家に代々受け継がれると共に、歴史は埋もれ、真実を知る者がいなくなり、現在、魔力量さえ足りなくなり、偽物さえ受け継ぐ事が出来なくなったのです。」
「た、大変ですね。」
それしか言えない。
作品名:神殿長ジルヴェスター(14) 作家名:rakq72747