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神殿長ジルヴェスター(14)

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フェルディナンド視点



 私の名はフェルディナンド。エーレンフェストの名ばかり領主候補生から、兄の一家を暗殺して領主に成り上がった男だ。
 …私が物心が着いた頃、既に母は居なかった。高みに昇ったのか、追い出されたのかは定かでは無い。ただ私の魔力量と全属性持ちと言う事実が、後ろ暗い何かを物語っている。
 7才の洗礼式前に父親の立場を知った。アウブ・エーレンフェスト。彼は私を連れて城に入った。
「エーレンフェストの為に生きなさい。」
 そう言った父はこれから母になる、自分の妻を紹介した。それがヴェローニカだ。彼女は私を息子とは扱わなかった。私は母無し子として、洗礼式を迎えた。
「今日から其方達の弟だ。」
 ヴェローニカに追従する事は無かったが、私の事等どうでも良いと思っていただろう。唯1人、ジルヴェスターを除いては。
「弟…? 妹ではなく?」
 一瞬、言われた意味が分からなかった。
「ドレスの方が似合うのでは無いか?」
 意味を理解した瞬間、威圧してしまい、散々な初対面となった。

 ジルヴェスターが何故私を気に入ったのか、良く分からない。弟、それも異母弟と言う存在に何故か心を砕いてくれた。
「聞いてくれ!! 光の女神が居たのだっ!!」
 心底惚れた女性と結婚したいと、私に協力を願い出た。…少し寂しかった。
 父が亡くなり、貴族院からジルヴェスターがいなくなると、ヴェローニカの嫌がらせはヒルシュールにも及び、エーレンフェストから送られる筈の支援もなく、寮内に留まる事が出来なくなった。
 アウブを継いだゲオルグは見て見ぬ振り、騎士団に入ったジルヴェスターには情報が行かないだろう事は予測出来た。
 そんな最悪な状態の私を気遣った女性と親しくなれた頃、ヴェローニカがジルヴェスターによって、高みに昇った。
 …意味が分からなかった。弟と言うだけで、私に情を映したジルヴェスターは父も母も姉も兄も…、家族を大事に思っていた。母をその手で殺した理由が、興味も無いアウブの地位の為等、有り得る筈が無かった。
 更にゲオルグが派閥を梳り、正確にはゲオルグ派でも無いヴェローニカ派を協力者として処罰した。
 ヴェローニカの命令で娶った妻2人の実家は力を無くし、肩身が狭くなった家族を庇うのではなく、領内の混乱を抑えると言う名目で、私を次期アウブと暫定的にだが、決められた。
 バカな。有り得ない。ヴェローニカが私を排除しようと動かなければ、ゲオルグが手を打っただろうと確信出来るくらいには、私を警戒していた。我が子を差し置いて、私を引き立てる意味が無い。一体、何が起こったのだ? 
 私はユストクスを使い、情報収集に当たったが、ジルヴェスターはゲオルグの命令でヴェローニカを殺害し、汚名を着て白の塔に入った、と言う噂しか分からない。信憑性はあるが、ジルヴェスターの得るモノが無さすぎた。だが…、もしそれが自分では無く、私の為だったら? 
 私は何度も白の塔にいるジルヴェスターに面会依頼を出したが、ゲオルグは頷かなかった。だがあの男が毎日の様に、ジルヴェスターの元に通い詰めているのは知っている。
 私はジルヴェスターの事が気になりすぎて、元より多い訳では無い交友関係が、よりなくなっていった。
 貴族院6年生。シュタープを手にして間もなく。ラオブルート様が現れた。曰く、グルトリスハイトを探して欲しいと。
 私は内心これだ、と思った。神々の叡知。これがあればエーレンフェストの事が分かるかも知れない。
 そうして私はエアヴェルミーンよりメスティオノーラの書を承った。のだが。