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神殿長ジルヴェスター(14)

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 「エアヴェルミーン様、現在、起こっている事が分からないのですが。」
「高みに昇った者の知識だからな、現し世にいる者達の記録は無い。」
 それでは意味がない。何の為にメスティオノーラの書を手にしたのか。
「調査方法は無いのですか?」
 食い下がる私にエアヴェルミーンはふむ、と頷く。
「どうしても、と言うならば私を含めた、神々が使用する魔方陣を教えるが。」
 その様なモノがあるのか!? その様な事が出来るのか!? 
「ただし其方に使いこなす事が出来るかは分からぬ。そもそも最初の頃はそれしか無かったのだが、人間に使いこなす事が出来なくて、勝手に改悪したのがゴロゴロ生まれてな。改悪出来ないモノは利用価値が無かった様だから、削ったのだ。恐らく人の身で使うには、負担が大きすぎる筈だ。」
 それでも構わなかった。
「御願いします。」
 私はジルヴェスターの身に起こった事を知りたかったのだ。

 枯渇、処ではない。幾つも回復薬を飲み、完徹を続け、漸く発動に漕ぎ着けた術は物理的、時間的に離れていても、監視出来る優れものだ。確かに連発出来るものではない。維持するにもかなり大変だ。
 私はそこでゲオルグとジルヴェスターの関係を知ってしまった。吐き気で集中が途切れそうになりながら、全て見た。
 感情が荒ぶるのはが分かった。脳裏に浮かぶのは、フロレンツィア様との星結びを楽しみにしているジルヴェスターの姿。幸せになるのなら良かった。唯、憧れて、自分もそれを目指して寂しさを埋めようと思えたから。
 だがこんな――、こんな事は認められない。不幸で良いのなら、何故私から離れたのだ? 
「ジルヴェスター…、其方は…、其方は私のモノだ。」
 狂宴は私に浸食し、産まれてはならなかった執着を生んだ。兄を想う心は、ゲドゥルリーヒを想う心へと変わったのだ。

 貴族院を卒業した私は、人の心を操る術を使用した。神の術だけあり、非常に効能が良い。…負担は監視術以上だが。
 一体、神が何の為に使用していたのかは知らないが、私にはどうでも良かった。ゲオルグ一家を全員操り、一家心中に見せ掛け、殺害した。
 遺書も書かせて、私のアウブ就任に文句を付けささず、ジルヴェスターを白の塔より出した。
 身食いの様になっていたジルヴェスターは意識が無かった。分かってはいたが、その体の痕跡は私の心をかきむしった。

 私はゆるりと口説いていくつもりだった。ゲオルグと同じ手を使うつもりは無かった。私の望みは同じ重さで愛され返す事だったからだ。
 私はまず今まで一緒に居られなかった時間を埋める為に出来る限り傍にいた。
 成人した領主の子は、次期アウブ以外は独立しなければならない。だから本来はジルヴェスターは城には住めない。元々はフロレンツィア様と別の家に住む予定だった筈だ。
 だが私はジルヴェスターの事情を考慮し、体が戻るまでは、城に住まわせると言う形を取っていた。
 だがそれであれば、ジルヴェスターに一室与えるべきだった。そうしなかったのは側にいる時間を増やしたかったからだ。
 そんな私の気も知らず、結婚を勧めるジルヴェスターに何かがキレた。体力が戻らず、抵抗出来ない体を私は抱いたのだ。
 そうして抱いてみれば、信じられない程の幸福が身を走る。どうせ後には空しさが満ちると解っていても、酔っていたかった。
 ジルヴェスターは私には甘く、受け入れる事はしないのに、突き放す事もしない。私は正しく生殺しだった。例え神殿に逃げても、それは変わらなかった。