逆行物語 第三部~ヴィルフリート~
変動(3)
2人だけになると叔父上は箱を開け放つ。中には青のマント? それに接着剤?? それから――、
「灯り絞れ。」
「はい。」
見覚えがある物が見えたが、確認する前に命じられ、私は直ぐに従った。
変形させたシュタープで、マントを一部切り取っている。
…良いのだろうか。エーレンフェストのマントでは無いから良いのか。
言い訳するなら(許されるなら)、私はこの時、ハイスヒッツェと言うダンケルフェルガーの騎士の事は知らなかったのだ。
「来なさい。」
酒臭いのを我慢して、私が近付くと切り取ったマントに接着剤を手早く雑に付けていく。そして。
「ちょ、叔父上!!?」
流石に反射的に抗議したが、その瞳が虹色になって、黙らされる。…胸が痛かったです、叔父上。
「ヴァッシェンは禁止だ。」
そう言いながら、箱から取り出したソレを、千切ったマントを捻り、太さを持たせて付けた。
「叔父上…。」
私は叔父上がした事に漸く気付いた。接着剤を付けた元・青のマントを頭に被せられ、後ろの余った部分を捻り、ソレを付けられた。
ソレ――恐らく譲られたのだろう、父上の髪飾りを。
「ジルヴェスター…。」
弱々しい声。こんな叔父上は見た事が無い。
「私はどうすれば良い、其方がいないエーレンフェストで、私は何をすれば良いのだ。エーレンフェストの礎は其方だったのに。其方がアウブだから父上との約束に意味があったのにっ!!
ローゼマインの無茶を叶えるのもその為だったのに!!! 今の私は正反対の事をしている!!!! 愚かな争いに足を取られ!!! フロレンツィア様に犠牲を強い!!! ローゼマインを追い詰めているっ!!!!!!
…私は害悪だっ、其方からアウブも、妻も、父上の形見さえ奪い…!! ヴェローニカの言った通りではないかっ!!!!!! その上、ローゼマインからも」
「いい加減にしろ!!!!!! フェルディナンド!!!!!!!!!」
これは酔っ払いだ。理屈は通じぬ。通じる様で通じぬ。小細工をした処で父上にはなれぬ。こんな布を巻いても、髪色が変わる訳もなく。明るい処で見れば、唯の仮装だ。
暗い部屋だから、髪と布の差を誤魔化せるだけだ。ローゼマインと父上の髪色の差が解らぬ程度の暗さにしなければ、布の色と髪色の差さえ明らかだ。
それでもそんな正論は無意味でしかなく、私は、私は…、父上に成り切るしかなかった。
「フェルディナンド!!! 其方程、エーレンフェストの事を考えられる者はおらぬ!!! 其方だからアウブを安心して任せられるのだっ!!! フロレンツィアもヴィルフリート達も、ローゼマインもっ!!! 其方だから任せられるのだっ!!!!!
自分を責めるな、其方は良くやっている、うわっ!?」
私に向かって、突然、叔父上が倒れ込んだ。
「寝てる……。」
下敷きになった私は抜け出すのに苦労する事になる。
…この夜以降、叔父上の政略はより凄みを増していく。叔父上がこの夜をシュラートラウムの祝福としたか、加護にしたかは分からぬ(覚えているか分からない)。何となく聞けなかった。
作品名:逆行物語 第三部~ヴィルフリート~ 作家名:rakq72747