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逆行物語 第四部~アーレンスバッハ~

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ゲオルギーネ視点~終幕~



 私は罰せられる事はありませんでした。醜聞を恐れたからでしょう。ですが、私は早急に嫁入り先をエーレンフェストの外で探されました。
 私の側近は、私がその場で始末を付けたので、お母様はまた貴族に恨まれています。良い気味です。
 ジルヴェスターは相変わらず、勉学をサボって私に会いに来ます。恐れている癖に。
「何をしているのです? 次期アウブとしての自覚があるのですか?」
 冷たい目で、威圧しました。
「カルステッドが慌てているでしょう。本当に人の迷惑を考えられない、どうしようも無い子ですね。」
「姉上…、私は姉上と仲良くしたくて…。」
 息苦しさを乗り越え、言葉を途切れさせる事はありません。確かに魔力量は私を越えて行くのでしょう。
「貴方の様な出来損ないと仲良くして、何の利点がありますか?」
 そう言いながら、私は毒味をしないまま、ジルヴェスターに飲み物を渡しました。そのまま飲んでも、毒味を言及しても、ありったけの嫌味をぶつける準備はありました。まあ、その前にカルステッドに見付けられるのですけれど。

 …私がアーレンスバッハに行く時、手紙を渡して来ましたが、目の前で破り捨てました。
「貴方とはもう赤の他人、迷惑です。」
 何か言おうとしたジルヴェスターに、私は先に言いました。
「ああ、赤の他人だからと言って、私の愛妾になれるなんて思わないで下さいね。聖杯も剣も、壊れはしないのです。」
 あの日、意味も理解しない小さなジルヴェスターの剣を無理矢理、自身の中に入れた事を揶揄してやりました。
 私は何れエーレンフェストを奪うのです。奪われるジルヴェスターの縁等、必要無いのです。



 アーレンスバッハに向かった後はまず、かの領内を理解する事から始めました。アーレンスバッハ側の考え方を理解し、第一・第二夫人達とも上手くやれる様に動きました。
 政変は私にとって、好機でした。領内での影響を高めるだけでなく、派閥を増やして行きました。
 第一夫人に成り代わる。先ずはエーレンフェストを下せる地位を獲得する、それを目的に走りました。
 気が付けば産まれていた娘達に構う暇はありません。精々お人形になって貰おうとしか考えませんでした。
 そうして走り続けて、第一夫人、後一歩まで来ました。彼女は何も気付いていませんでした。私も油断しませんでした。それなのに…。

 ジルヴェスターの訃報が届いた時、私は嬉しかったのです。第一夫人に成り上がるのも後少し。きっと葬儀に行く際にはエーレンフェストを見下ろせるに違いありません。
 その際に領内を観察させて貰い、気落ちしているだろう、お母様の隙をついて、エーレンフェストに小飼を放ちましょう。叔父上はどうしようかしら? 
 先々まで細かく計画していたのに、とらぬ魔獣の皮算用だったと知らされたのは、大きな屈辱でございました。
 フロレンツィアに膝を付き、私は挨拶を交わしました。何時か、この立場を入れ替わらせる、と強く思ったモノです。
 しかもジルヴェスターだけでなく、叔父上も遥か高みに昇っておられました。どうやらお父様と同じ病だそうです。流行病と考えられるからと、私は直ぐに帰されました。何かあるのでは、と思いましたが、探る事も出来ません。口惜しい想いでアーレンスバッハに帰ったのでございます。
 そうして、それは境界を超えて間も無く。私はアーレンスバッハの騎士の集団に囲まれました。何かが起こった、と分かりました。
「ご無事でしたか、ゲオルギーネ様。さあ、此方に。」
 事情は安全な場所に付いてから、と言われました。ここから一番近い転移陣は…、と考えていた私に、開けられた馬車の窓から、何かが投げ入れられました。

 それが私の最後の記憶でございました。