逆行物語 第四部~アーレンスバッハ~
アウブ・アーレンスバッハ視点~エーレンフェスト~
内密でツェントに呼び出され、驚くべき事を2つ申し受けた。
1つ、ランツェナーヴェとの交易を断つ事。猶予を設ける故、その期間中にランツェナーヴェの船を返し、国境門を閉める事。
1つ、第三夫人のゲオルギーネを排除する事。遣り方は私に任せるとの事。
意味が分からぬ私に、ツェントはグルトリスハイトを見せた。
「これは神々からの借り物である。初代ツェントが神より賜ったグルトリスハイトを入手次第、返すものである。
…これを借り受けた際、ランツェナーヴェがユルゲンシュミットに侵略を考えている事、其方の第三夫人、ゲオルギーネが協力を考えている事、この中央にも裏切り者がいる事を示された。
借り受けた際には、仰られた事の意味が分からなかったが、色々調査して見えてきたのだ。
ゲオルギーネはまだ具体的には動いてはいないかも知れぬ。だとすれば反逆罪は適用不可能。しかしアーレンスバッハ内での事ならば、掴める事案がある筈だ。」
…ゲオルギーネを娶った時を思い出す。嘗てアーレンスバッハの貴族を娶りながら、蔑ろにしたエーレンフェスト。アウブ一族の血とガブリエーレの血を引く娘を私が娶る。
謝罪の気持ちがあるのだと思った。蓋を開けてみれば、唯の厄介払いだった。
それが今、アーレンスバッハを危機に陥れようとしている。…エーレンフェストに恨み言の1つも言いたくなると言うモノだ(自領の恥になるから言えぬがな)。
ジルヴェスター・エーレンフェストの葬儀に出ている隙に準備をし、アーレンスバッハに戻った時を狙い、始末させた。名捧げの犠牲になった側近が憐れだったが、仕方あるまい。
それにしても一族に責を負わせぬとの約束をすれば、此方に従う程度の忠誠心で、名を捧げる事が当たり前になったのは何時からか。少なくとも200年程前、アイゼンライヒが潰れた頃はそうでなかったと思うのだが。
…政変で減った貴族が更に減った。頭にエフロレルーメの祝福で花の群生を飼っているのでは無いかと言う娘でも、領主一族なのだ。
庇護する大領地に責と恥を負わせたのだから、報いがあって然るべきだろう。エーレンフェストには態度で物申すべきか…。
な!!? 何故、ダンケルフェルガーにそんな忠告を受けねばならぬのだ!!!
エーレンフェストに無理難題を押し付けているだとっ!!? 上位の特権ばかりを振りかざす姫を押し付け、領内を混乱させ、エーレンフェストが対応に苦慮しているのを昔から楽しんでいた!!!? 庇護する立場でありながら、エーレンフェストを搾取し、悪評をばら蒔いた、だと!!!??
次から次へとエーレンフェストへの接触を悪く言われ、私は身を引くしかない。今やダンケルフェルガーはアーレンスバッハより遥かに上位。その上、策謀を巡らす女達ではなく、ディッター狂いの男までもが、積極的に動く故に、信憑性が増してしまう。
こうして気が付けば、アーレンスバッハはエーレンフェストより引き離され、手を出せずにいる間に、ダンケルフェルガーの聖女が貴族院に入学し、エーレンフェストの先祖帰り(神殿長を次期アウブが勤めた歴史より)と関わりを持ち、庇護領地の立場を奪われた。
作品名:逆行物語 第四部~アーレンスバッハ~ 作家名:rakq72747