逆行物語 第六部~父親達~
ギュンター~マインの婚約~
洗礼式より15日程経って(その間、手紙はちゃんと届けられていた)、マインは帰ってきた。…お貴族様連中と一緒に。
俺達が住まう場所には明らかに浮く立派過ぎる服装、姿勢、歩き方、雰囲気…。
あんぐりと口を開けたのは俺だけじゃない。
「ギュンター一家とやらは何処だ?」
マインを抱えている水色の髪の男より、半歩程前を歩く、マインの髪色を薄くした様な青紫の髪を持ったお貴族様が問い、当たり前だが、俺達に視線が行く。
俺はお貴族様の前で跪いた。
「其方がギュンターか。」
「はい。」
俺に続き、エーファやトゥーリがそれに習う。
「私はジルヴェスター・エーレンフェスト。エーレンフェストのアウブだ。」
ご、ご、ご領主様っ!!?
「其方の娘の事で話をしたい。」
空いた口が塞がらない…。
部屋が狭いからか、入ってきたのはご領主様とマインを抱えていた男の2人。盗聴防止とやらの魔術具を見せられ、これまたびっくりしたのは言うに及ばず。
マインが水色の髪の男の膝に乗り続けているのが気に食わんが、ご機嫌なので悔しいが我慢する。
「ギュンター、私はフェルディナンドと言う。突然だが、私の義父になって貰いたい。」
「はあ?」
意味が分からない。
「マインと婚約したい。」
はあああああああっ!!!!!!!!?????
人間、驚き過ぎると声も出ないらしい。
マインは身食い。長生きするには貴族の助けが必要だ。だが身食い契約と言うのは、良い貴族を見付けないと、只、遣い潰されて終わる。確かに嫁にしてくれるなら、それは一番良い手かも知れん。
…が、気に喰わん!! 当たり前だろうっ!!!! 確かに俺の娘は美人だっ!!!! 将来が楽しみだっ!!!! だが7才になったばかりの娘に婚姻を求める20代を信用出来るかぁっ!!!!!!!!
「ふざけるなあっ!!!!!!!!!! お貴族様だろうが変態に娘やれるかあっ!!!!!!!!!!」
だから俺は迷いなく叫んだ。勿論、フェルディナンド様とやらを睨み付けた。
「正論に返す言葉も無いな。」
横からボソリと声が聞こえたが、答える前に俺の可愛いマインが口を開いた。
「私は幸せだよ。フェルディナンド様が私を幸せにしてくれるの。だから、私もフェルディナンド様を幸せにしてあげたいの。父さん、お願いっ!!!!」
「ギュンター、約束する。いや、契約しよう。私はマインが成人して、大人の体に成長するまで、絶対に手を出さぬ。」
…後で知ったが、この契約は魔術を使うもので、破ったらエライ目に合うとか。序にお貴族様は普段、こんな言葉は使わないらしい。俺が理解出来る様にモノを言ってたらしい。因みに誰から情報かっつーと、この一件で何故か懐いてきた領主様なんだが。
とにかく親元を離れるのが早すぎるとか、マインと離れたくないよ、とか色々言ったが、マインの意思が固かった事、唯生きる為だけでなく、マインらしく生きる為の貴族の庇護である事、俺達家族を完全に引き離す訳ではなく、領主様に保護され、堂々と会える事…、なんつーか平民、それも貧民にここまで気遣う貴族様がいるとはな…。けどこれだけは言っとかなきゃならねえ。
マインの夫になるフェルディナンド様だけじゃなく、マインの父親になる領主様にも。
「娘を不幸にするなら領主様だろうが王様だろうが神様だろうが絶対に許さんからなっ!!!!!!!!!!」
そんで懐かれた。フェルディナンド様は良い。息子になるんだからな。けど、領主様、俺、何であんたの父親みたいになってんの?
作品名:逆行物語 第六部~父親達~ 作家名:rakq72747