逆行物語 第六部~父親達~
ジルヴェスター~水の季節に流される~
父上に、姉上の身代わりとしてアダルジーザの離宮から連れ出されたフェルディナンド。唯、利用する為に助け出され、私の弟になった。
父上に…、愛されている、と信じていた弟。それを裏切りたくなかった。何とか形だけでも、父上に取り繕わせる事しか出来なかった私には、母上の行動を止める処か、把握する事も儘ならぬ。…情けなかった。
弟だけではない。私は妻子を守れなかった。息子を人質に出した事で、妻をエルヴィーラに守らせる手筈を整えられた。…私は無力だ。
フロレンツィア派、ヴェローニカ派、ライゼガング派、中立派…。中庸を取る事が重用だった。本来なら私はヴェローニカ派を守らねばならなかったが、母上が掌握し続ける以上、私が目を掛ける訳にはいかなかった。そんな事をすれば、フェルディナンドを完全に排斥しなければならなくなる。だからと言って、後ろ楯である派閥を切る事は出来ない。
…本当に情けない。お飾りのアウブと言われても否定出来ぬ。
そして状況は私の全く意図しない方向から動いた。
フェルディナンドが結婚したい女性だと、平民の幼女を連れてきた。しかもいの一番に相談した相手は母上だった。信じられなかった。だが全てはそこから好転していった。
ヴィルフリートの養育はフェルディナンドが行う事になり、フロレンツィアは会いたいと思えば、それを叶えられる様になった。
マイン改め、ローゼマインは非常に優秀であり、同時にエーレンフェストに新たな産業や流行を産み、利を与える存在だった。
フェルディナンドに教育されるヴィルフリートは、当初、過ぎる厳しさに不安もあったが、それを吹き飛ばす成果を挙げていた。ローゼマインの奇抜な案を、受け入れて貰い易い言い方を伝授し、付け上がるモノには厳しさを見せる。
フェルディナンドは誰もが理屈は分かるが、感情的に受け入れにくい言い方と、何時の間にか握っている情報で脅しながらの交渉をする為、凝りを残すのだが、ヴィルフリートはまず相手を良い想いをさせ、不快にならない交渉を心掛け、それがダメなら厳しい態度を取る。
唯、実質的に厳しさを求める交渉は、敵対も辞さない相手でない限り、フェルディナンドが行う事が多い。その辺りの匙加減を良くフェルディナンドとヴィルフリートが話し合っている。
…良く出来た息子と弟だ。この調子で私を楽隠居させてくれ!! 物語は忘れてやるから!!!!
と、思っていた事は否定しないが、ヴィルフリートが作った曲に傷付いた…。
それだけじゃない。何かフェルディナンドからの接触が増えた気がする。いや、ローゼマインに引き摺られたんだろうと思ってた。
突然、赤の他人が家族になったのに、戸惑う様子も見せず、馴染もうと懸命だった。私に甘えて父親として認めてくれる姿にほだされて、ついつい甘やかしてしまっていたからな。
それに…、ギュンターの事も気に入っていた。平民と貴族とでは、違いが多すぎて、比べるモノではないと解っているが、あの娘を想った強い啖呵に惹かれた。
父上がギュンターの様な男であったなら、と願ってしまう一方で、ならば自分はどうなのか、と自嘲する。
苦い想いと甘い感動に、ついつい身を委ねたくなってしまう。
だから精一杯、ローゼマインの父親になろうとした。
気が付いたら、ローゼマインを抱き上げたり、抱き締めたり、が当たり前になっていた。
フェルディナンドとローゼマインもかなり近い位置取りになっていて、それが私にも少しずつ適用される様になっていた、の、だが。
作品名:逆行物語 第六部~父親達~ 作家名:rakq72747