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げつ@ついったー
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今桜詰め合わせ

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ミゼリィレッドセンチメンタリズム



普段、制服姿の主将を見る機会は、ありそうで意外とない。部活の時は言わずもがな練習着だし、自衛隊さながらの早着替えを体得している体育会系男子同士、いちばんのチャンスであろう着替えのタイミングも合うことは少ない。もたもたしてると先輩から一喝がくるし。一年と三年の教室棟は違うからひとたび授業が始まれば会うこともない。
ふと何度か見た彼の制服姿を思い出す。最後の記憶。秋のことだったから、彼はまだベージュのカーディガンを羽織っただけで、ブレザーは着ていなかった。緩く開けた首元に完璧な結び目のタイを引っ掛けていて、そのギャップが妙に彼らしかった。女子のようにワンサイズ大きなカーディガンも、練習用とは違う普段使い用の眼鏡も、目立つ規約違反も改造もしていないありふれた制服姿。それがこんなに当たり前に、彼という存在に馴染んでいるのが不思議だった(……見なかったふりをしたけれど、鎖骨の絆創膏から隠しきれなかった、赤い跡も)。

「桜井、こっち詰め。寒いわ」
「すいません、失礼しますっ……!」
暖房の電源を入れても、暖かくなるまでには時差がある。彼は時差の間僕を湯たんぽ代わりにしようと思ってくれたらしい。僕の体温は「子供体温で温いねん」と彼は笑う。あなたにそう言ってもらえるなら、僕、発熱しても会いに来ちゃいますよ。
「っはー、ぬくいなジブン」
「すいません」
「イヤ、ええんやない?なんかワシ専用っぽうて」
そうだよ、僕はいつだってあなた専用のペットなんです。だから僕はあなたが呼んでくれるのがすごく嬉しい。あなたの一番になれなくても、あなたが僕の一番で、あなたに愛してもらえればそれだけで嬉しい。
いつか見ないふりをした赤い跡を付けるのは、今は僕の役目になった。今吉さんは髪を梳いて「ええ子、」とあまく囁く。あなたに誉めてもらえるなんて、幸せすぎて涙が出てしまいそう。
「また泣いとるん?良」
「は、……っすみませ、…」
「………悪い子」
ああ、駄目だ。また。面倒くさい男なんて、絶対に嫌われるって分かり切っているのにね。溢れる涙が止まらない。ねえ、でも、何で泣いているの、僕。

あなたの一番でなくても、幸せです(少しの痛みを伴って過ごすだけです)。
あなたが愛してくれなくても、幸せです(我慢できぬほどのものではありません、だからどうかお側において)。
僕は今、幸せです。
幸せで、いたいだけです。

彼の制服姿は秋で止まったまま。次に見るときはきっと卒業式になるんだろう。卒業式ではきっとボタンも開けずタイもきっちり締めて、行儀よくブレザーを着て、いつかのベージュのカーディガンはお役御免。僕の知ってる先輩とは違う先輩になるんだろうな。
最後のあなた。僕の知らないあなた。去ってゆく、あなた。
そのとき、最後の画に自分のつけたしるしを誇示できないこと(、切ないだなんて、おこがましい、)。
「良ー」
「…すみません」
「ええよ、許したる」
晒された白い鎖骨は、僕を誘うにはあまりにも充分。甘やかされて図に乗ってもっともっとと餌をねだる身のほど知らずな哀願動物。惨めだね。幸せで痛いだけなのに、ね。



(2010-01-23)