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棘の役割

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赤かった。
目に見える一面の景色は赤。
炎の色なのか血の色なのか判らないくらいに赤かった。
足元に横たわる躯の数々にもう心が動くこともなくなって久しい。
徐々に失われつつある自分の感情。
それを自覚しているが引き止めるすべも思いつかない。

もう既にここに人はいない。
次の犠牲を屠るために移動しようとしたら何か黒いものが上から降ってきた。

「そろそろお帰りになってくださいませんか?」

こんな近くまで来ていた人に気づかないとは。
目の前に小柄な体躯の青年が立っていた。

「これ以上の殺戮は不要です」
「何故、そんなことを言う?」
「私にしてみれば皆さん大事な国民なのであまり多くの死者は困るのです」

不思議なことを言うと思った。
CFCも日興連も互いに互いを宿敵として殺して当然だというのに。

「私にしてみれば貴方も大切な国民なのですから」
「俺、も?」
「ええ。……例え被検体としての生だろうと私は貴方の幸せを望みます」

その言葉聞いた瞬間、腕が動いた。
俺の腕は生身の人間でも貫通する。
そうやって何人も殺してきた。
だからこの男も同じようになるのだろうと思っていた。

「ですから、無駄なことはやめて帰られません?」

しかし、その予想は外れて男はそこに立っていた。
俺の腕を右手で逸らし、いなす。
普通の人間ではスピードについてくることすら出来ないのに。

「お前は何者だ?」
「私は日本ですよ」
「にほん……?」
「この国の化身とでも言いましょうか」

そう言って笑った男は確かに遥かに老成した雰囲気を持っていた。

「貴方は望んでいない。……貴方が生きる上では仕方ないのかもしれませんがそれでも望まぬことをするのは苦痛でしょう」
「苦痛……?」
「ほら、もう感覚も忘れている。それは防衛本能の一種ですよ」

指摘されたことは本当のことなのかもしれないがどうでもよかった。
ただ無感動なままに男を見つめ返せば仕方ないとばかりに笑う。

「私では思い出させるのは不可能ですが止めるくらいはして差し上げれます。また、お会いしましょうね」

そう言って立ち去る後姿を見つめ続けていた。
そのすぐ後にジープに乗って科学者達が俺を回収に来た。
その後、戦場に行く度にどこからとも無く現れては殺しすぎだと止めに来た。
しかも何故か俺の日常にあったことまで知っていた。

「今日は良かったですね」
「何が?」
「貴方の寂しさに気付いていただけて」

あぁ、あの少女のことか。
たしかアキラと言っていた。

「貴方の寂しさはいつか癒えますよ」

そう言って彼は哀しそうに笑った。

それからまもなく俺は研究所から逃亡した。


作品名:棘の役割 作家名:あきら