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棘の役割

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あれから何年も過ぎ去っていった。
有力な手掛りは掴めないまま内戦は終わり、兎園に送られたプロジェクトの被検体達も皆ばらばらに散っていった。
噂を辿っては落胆する日々。
しかし、確かに奴はまだ生きている。
きっと、一人では死ぬこともできず、ただ漫然と、まるで空気のように生きているだろう。
見なくてもわかる。
そんな、可哀想な男。
いつしか、奴を殺してやることが私にできる唯一の事だと思うようになっていた。

「エマ、トシマでヴィスキオという組織が何かし始めたようだ」
「何かとは?」
「イグラというゲームらしい」
「ゲーム?……Bl@starのようなものか?」
「いや、よく判らないが殺人も許容されているらしい」

現在、どのような理由があろうとも殺人は極刑。
Bl@starに飽きた若者トシマを目指すだろう。より危険な、スリルを求めて。

「タグを集めて、イル・レと呼ばれる人物に勝利したら次のイル・レになることができる、と」
「イル・レ?」
「ヴィスキオのトップだそうだ」

つまりそのヴィスキオとやらは下手したら自分が殺され、組織を乗っ取られるかもしれないというゲームを始めたわけか。
そのイル・レは余程の自信家か馬鹿か……もしくは両方か。

「それで?ヴィスキオという組織がそんなゲームをするんだ何か目玉があるのだろう?」
「あぁ、何でも麻薬組織らしい」
「まあ、そんなゲームなら買う奴も居るだろうな」
「そうじゃないんだ」

グエンの口が重い。
何が言いたい。

「その、ラインという薬をやると身体能力が格段に増大するんだそうだ」
「麻薬、なのだろう?」
「確かに麻薬なんだ。しかも、依存性の強い」

薬をやるだけで身体能力が上がる、だと?

「反作用も強くて、合わないと死に至る。精神的変換も見られるらしい」

強くなりたい奴は手っ取り早く手を出すことだろう。
もしかしたら、参加者全員が常用する可能性だってある。

「それで……紫の目の男をトシマで見たものが居る」

心臓が跳ねた。
まさか、これにあの男が関わっているというのか。
nicolの症状によく似た効果を齎すドラッグ。
イル・レがアイツだとでも言うのか……

「まだ調査中だが、今までより信憑性は高い」
「判った。調査を続けろ」

反射的に答えた。
グエンが退室するのを呆然と見送りながら、頭の中であの無感動な目を思い出した。


作品名:棘の役割 作家名:あきら