棘の役割
目を覚ますと見たことの無い天井が目に入った。
木で出来たそれなど見ることも稀だ。
ここはどこだろうと動こうとするが体は動いてくれなかった。
優しい光が部屋を満たしている。
こんな場所を俺は知らない。
「おや、気付きましたか」
「にほ、ん?」
掛けられた声に視線だけをそちらに向ければゆったりとした衣服を纏ったこの国の化身とやらが立っていた。
その手には水を張った盥とタオル。
なるほど体を清めにきたのか。
「まだ動けないと思いますよ」
「ん……エマは?」
「エマさんは強制的に眠ってもらいました。今は落ち着いて生活していますよ」
ニコリと笑う姿は虫も殺さぬようなのに時々過激な事を言う。
慣れた手つきで体を抱き起こし、湯で濡らしたタオルで体を拭っていく。
「もう少ししたら食事を持ってきてくれますよ」
「……ここは?」
気になっていたことを尋ねる。
木造の家なんてこの時代、そうそうあるものではない。
荒れた様子も無く、管理手入れされているなんて更に少ない筈だ。
「ここは私の持ち家です。ですから安心してくださいね」
そういって、日本が笑う。
拭き終わり、服を再び着せられた所でノックの音が響いた。
日本が扉を開け、何かを受け取っている。
それから大きく戸が開けられ、現れた人に瞠目した。
「ナノッ!!!」
それは向こうも同じらしく、目を大きく開いて、こちらに駆け出していた。
そう広くも無い部屋だ。
直ぐに枕元にたどり着く。
恐る恐ると言う風に顔に左手が伸びた。
確かめるように頬をなぞり、髪を掻き揚げる。
その目は安堵のためか涙が浮かんでいた。
「もう、もうダメかと思った……」
「ニコルの力は凄いですね」
俺の手を掴み祈るように額を寄せるエマの後ろで本田がしみじみと言った。
「私も手は尽くしましたけど、助かったのはニコルの生命力のお陰でしょう」
「わ、私は、今ほど、ニコルに感謝したことは無い」
「……そうか」
涙声で言葉を紡ぐエマがそう言うのなら、俺も感謝していいかもしれない。