雪解けはもうすぐそこだ
なんで及川さんと一緒にいたんだよお前、俺のこと好きじゃなくなったのかよ
「おい影山!聞いてんのか!?」
影山は渋々日向を解放した
その日の昼休み
影山は日向を捕まえようと、授業が終わってすぐ1組に向かった
メールがダメなら、直接会いにいけばいい
「おい、日向いるか?」
「日向くん?」
近くの女子に聞くと、申し訳ないと手を合わせた
「ごめん、私先生に頼まれてた提出物、重そうに持ってたからって、日向くんが持ってくれて、職員室行っちゃった。」
「すぐ戻るとか言ってたか?」
「…ううん、分かんない」
ほんとにごめんね!と言って女子生徒は去った
(全然会えねーな)
影山は心が折れそうになりながら、職員室まで足を運んだ
すると、ちょうど職員室から出てきた日向が目に入った
「日向!!」
「うお!?」
「ちょっと来い!」
影山は日向の手首をむんずと掴むと、日向に有無を言わせずズンズンと歩き出し、トイレの個室に連れ込んだ
「ど、どうしたんだよ、影山。こんなとこに連れ込んで」
「お前俺のこと好きじゃなくなったのかよ」
「え?!な、何でそんなこと聞くんだよ」
「お前が及川さんと2人きりでいたって聞いた」
「え、」
日向は及川と昨日確かに一緒にいた。彼女が用事があるからと先に帰ったのだ。ど、どうしよう。及川さんから影山と接触を減らし、絶対2人きりにならないように言われたけど…好きかと問われれば間違いなく好きだ。大好きだ
影山はどうしようかと思っている日向を見て、日向の顔の横にドンッと両手をついた。
「逃げんなよ日向」
そう言うと、影山は日向に顔を近付けてきた。
《もしトビオがチビちゃんの身体目当てだったらどうする?》
日向は影山の顔を両手で止めた
「!?」
「悪い、影山。もうこういうことはしないでくれ」
日向は始めて、影山のキスを拒んだ
影山は両手を日向の頭の横に置いたまま、日向から離れた
「…何でだよ」
「悪い、理由は言えない。でももう惨めな思いはしたくないんだ。」
付き合ってくれてる時は嬉しかった。でも寂しかったのだ。1人でいる時よりも、ずっと
ずっと
「俺のこと嫌いになったのか?」
「…ううん」
「じゃあ何で拒むんだよ」
「それはまだ言えない」
及川が言っていた期限は3日だ。なんとか明日まで影山との接触を避けなければならない
「及川さんが好きなのか?」
「はぁ?!」
これには驚いた。なんで、及川さんと一緒にいただけで好きになると思うのか
「だって及川さんモテるだろうが」
「そ、そうかもしれないけど…」
及川は至ってノーマルだ。彼女だっているし、何を不安に思うのか
「お前のこと盗られるかもしれねーだろ」
「盗られる?!」
それは流石に飛躍し過ぎだろ、彼女がいるのにそんなことするわけがない
すると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った
「影山、ヤバイってチャイム鳴ったぞ。もう出ないと」
「…嫌だ」
「おいこらワガママ言うなよ」
「じゃあ俺のこと好きって言ったら、出してやる」
「え、えぇ?!お前何なの?実は馬鹿なの?あぁ馬鹿だったな」
「うっせぇ黙ってろ、及川さんのこと好きじゃねぇんだろ?」
「いやそーだけど、そんなこと言わせてお前虚しくねーの?」
「別に…早く言えよ、授業始まっちまうだろ」
「うぐ、お前が言うなよ」
「じゃあ早く言え」
「……す、好き」
「誰が好きなんだ?」
「……か、影山が好き…」
「よし」
そう言うと、影山は両手を壁から離し日向を解放した
次の日の朝
またもや日向は駐輪場には来ていなかった
「アイツ俺の存在忘れてねーか?」
試しに携帯に連絡が来ていないか見るも何もない。
「やっぱり何もない…」
影山はたった3日だというのに、この3日携帯を何度も確認していることに気付き、校舎の壁に背中が汚くなることも無視し、ズルズルとしゃがみ込んだ
別れたのだから、当然連絡は来なくなる。だが影山はどうしても諦めきれない
「なんなんだよアイツ!!」
仕方なく自主練しようと立ち上がり、部室に行き荷物を置いて体育館に向かう
「今日も1人なのか」
体育館のガランとした空気を吸い込んで、ボールを出し1人トスを上げ続ける。
ずっと気になってしょうがなかったオレンジ色の髪をした下手くそなチビ
烏野で再開していつの間にかセット扱いされ、初めは馬が合わなくて苦労したのに、いつしか欠かせない存在になった
好きになったのはアイツが眩しそうに笑いながら俺のトスを打った時からだ。
下手くそなくせに、負けん気は人一倍。いつの間にか、危なっかしい日向に世話を焼いていたはずが、いつもそばにいないと落ち着かなくなった
何度もアイツの揺れるオレンジ色の髪を見て触りたいと思うようになって
だからまさか日向が自分を好きだと思わなかった。
日向は1人は寂しいということを教えてくれた人間だ
王様である影山を否定しないでくれた
アイツと2人きりでいる時間は短かった筈なのに、今は凄く長い
好きな人といる時間は短く感じるのにつまらないことをしている時間は長く感じることを相対性理論というらしい。難しい言葉を使ってさも偉そうに言っていた日向を思い出した。
何だそれ?と聞いたら馬鹿にされて、ムカついたから調べてみたらそれを利用して未来ではタイムマシンが発明されるかもしれないと書いてあった。
タイムマシンがあったら、どうするだろう。
自分なら
そこまで考えて影山は、トスを上げていた手を止めた
ガラッ
「!!」
「オーッス」
田中だった
そうだよな、日向なわけがない。
「さっぶいなー」
と体育館に入ってきた田中にチワッスと言った。
「日向最近来ねーなー」
「……」
期待してしまった分、余計辛くなった
もしタイムマシンがあったら、日向を好きになる前に戻りたい
そう思わずにはいられなかった
今日も日向と2人きりになれる時間はなかった。
朝練の時間ちょうどに現れ、トスを打ち、早めに制服に着替え教室に向かい、昼はどこの誰といるかも分からない。部活はちゃんとやり、自主練習はせず、さっさと帰って行く
もしこれが毎日続くのだとしたら、俺はどうなるんだろう。考えたら寂しくてしょうがなかった。
そう思うと、影山は毎日欠かさずやっていた部活後の自主練をやめた。
「スイマセン、お先に失礼します!!」
「お、おぉ??気ぃ付けて帰れよー」
そして、さっさと帰って行った日向の後を、いつの間にか追いかけていた
すると校門前で及川さんと日向がいる姿が目に映って、スピードをこれでもかというほど上げた。
これからどこかに向かうだろう2人を影山はガッと日向の手首を掴んで止めた
「お前は俺が好きなんだろ!?」
「か、影山!?お前何でここに…自主練は?!」
「どんだけ王様なのお前は…」
引き止める理由にそれはないでしょ、と呆れたように話す及川さんを無視した。
「帰るぞ日向」
「うぇ?!」
「ちょっと待ってトビオ」
「何ですか?」
及川は日向を自宅に引っ張って行こうとする影山を引き止めた
「チビちゃんのこと好きなの?トビオ」
「なんで及川さんにそんなこと言わなきゃいけないんですか?」
作品名:雪解けはもうすぐそこだ 作家名:tobi