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梅嶺 参 ───梅嶺ノ谷───

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「この先、どんどん寒くなるだろう。我々は寒さには慣れてはいない、本格的な寒さになれば、大渝の思うままになるだろう。
だが、相当量の兵糧と武器を奪ったのだ。この戦、長期戦になれば、この度は大渝とて耐えられぬ。」
「だから、砦戦の時に奪ったのか。」
「状況を掴んでいれば、誰でも採った作戦だろう。
大渝が、我々を侮っていた為、成功した作戦だった。
このこの戦さは、砦を奪い返し、大渝を梅嶺から、去らせる事が目的だ。
渝国の地をを侵略しようとか、渝国を統治下に治めようとは、景琰も考えてはいない。
梁と大渝の、防衛線を元通りに戻すだけだ。」
「皇太子殿下はそう考えているのか?。」
蒙摯が長蘇の言葉を確認する。
「、、景琰は、、、いや、祁王がそうだっただけだ。
景琰には聞いてはいない、、、。
、、、景琰は、祁王の政を敷きたいと、ずっと考えているからこそ、皇太子になった。
、、、、恐らく大渝との件も、、、、当然、、、、祁王と同じ考え、、だろうと思う、、、、。」
珍しく、梅長蘇の歯切れが悪かったのだが、長蘇の口から出た祁王の名前に、眩しそうに蒙摯が聞いていた。
「戦さに勝ちさえすれば、後は景琰が上手く交渉してくれるだろう。
梁軍が勢い付き、はったりでも、渝国の都に攻め込むと言えば、どの位の補償を出させることが出来るか。景琰の力の見せ所だ。
これまでも辺境を平定して来たのだ。そのあたりはお手の物だろう。」
梅長蘇が淡々と話した。
「おい、待て。大渝に金を出させると言うが、そうしたら、大渝の民が搾り取られる事になる。苦しむのは大渝の民ではないか。」
藺晨が珍しく口を挟んだ。
藺晨は、軍の事は門外漢だ、ずっと口を挟まずにいたのだ。
だが、他国の事とはいえ、一番弱い、底辺の民が一番影響を受ける。
そういった国の悲愴さを、藺晨は父親から聞いていた。
朝廷が、藺晨に向き直り、話す。
「そうだ。、、、生活が苦しければ、大渝の民は梁へと流れて来るだろう。そうすれば、大渝の国力は下がり、梁の国土を侵そうとは思わなくなるだろう。
国と国の戦さを勝利に導くかは、どれだけしっかり自国が治められているかなのだ。
一見、治国と戦とは無関係にも見えるが、治国が上手くいっておらねば、決して戦さも上手くはいかぬ。
他国との戦さに民の目を向けさせ、自国を掌握しようなどと、そんな簡単にいくものでは無いのだ。」
なるほど一理ある、藺晨はそう思い頷く。
武人は、戦ささえ勝てれば良いのだと思っていた。
長蘇は戦だけではなく、もっと高い所から、国と国を、政を、そして戦さを俯瞰で見ている。
赤焔軍主帥の林燮も、そんな男だったのだろうか。
だから赤焔軍は、無敵を誇ったのか。
朝廷の要職のどこに於いても、林燮も林殊も力を発揮した事だろう。
そして際立ったに違いない。
、、、、、だから、赤焔事案が起こり、抹殺されたのか、、。

長蘇は、幾つか谷の特徴と、考えられる戦術等を二人に伝えた。
蒙摯と戦英が、それについて議論をしている。
暫く二人は話し込んでいたが、蒙摯が議論は尽きぬ事に気が付く。
議論は持ち帰り、後は、状況に合わせて戦術を駆使するしかないのだ。
「ここは分かった。次の場所を視察するか?。」
「次は、、、」
蒙摯と戦英が、次の場所へ、皆で移ろうと言い出した。
しかし、長蘇は行こうとはしなかった。
「この谷の、戦術に生かせそうな視点は伝えた。次の場所はここからそう遠くない。二人で行ってくれぬか。私は、もう少しここで考えたい。」
「そうか?、段々冷えてくる。まぁ、藺晨殿もいるから心配は無いが。」
「では。」
戦英は梅長蘇に拱手して、二人は谷に背を向け、馬を繋いだ場所まで足早に去っていった。
馬のいる場所は、ここからは死角になり、馬の姿は見えなかった。
二人は、何か話しながら去っていく。


「おい、行ってしまったぞ。何故そこまで無理をする。」
蒙摯と戦英の姿が見えなくなるのを確認し、藺晨が眉をひそめ、長蘇の方を向いた。
「、、、、、。」
「具合が悪いなら、視察なんぞ止めれば良いのに。」
「、、、、、。」
長蘇は答えられなかった。顔色が酷く悪い。
藺晨は急いで長蘇の側に駆け寄る。
「急に悪くなったのか?。今朝は調子が良かったのに、、、。」
梅長蘇は、歩く事も出来ない程弱っていた。
立っている事さえ辛そうだった。
藺晨に支えられ、梅長蘇はゆっくりと側の岩壁にもたれる様に、腰を下ろした。
この岩も冷たいのだ。
藺晨は、こんな物に座らせたくは無いのだが、仕方ない。立ってはいられぬのだ。
顔の血の気は引き、体温が下がったのが分かる。
━━━また、元の梅長蘇に戻ったのだろうか。━━━
「長蘇、、、冰続丹を、、。」
「、、、こ、、、」
長蘇は薬を袂から出すことも出来ないのか、いくらか右手を上げて、薬の在り処を教えた。
藺晨が細い腕を手繰ると、薬の瓶が転がるように出てきた。
「無理が祟ったのだ。お前の場合は、調子の良い時程、休養せねばならぬというのに、、、。それでこそ回復するのだ。具合が悪くなってから休んでも意味が無い。」
藺晨が冰続丹の栓を開け、一粒を出した。
長蘇の手に持たせようとしたが、手を上げているだけの力も無いようだった。
「こんなに具合が悪いのか!。全く。これ程になる迄、何故、我慢をするのだ。」
藺晨は、仕方なく長蘇の口の中に、薬を押し込み、自分の腰に下げた水筒から、水を飲ませた。
「ゆっくり飲め、、。」
藺晨に促され、少しずつ、ゆっくりと水を含み、ゴクリと何度か喉から下した。
「ふぅ─────、、、、。」
藺晨から、大きな安堵の息が漏れた。
腕すらまともに上げられない姿に、薬すら飲み下せぬのではないかと不安だった。
━━━この薬さえ飲めば、一時的には何とかなる。せめて、砦に戻れる位には、、、。━━━
脈を診たが、思ったより、状態は良くない。
「よく、これだけ我慢を、、、。」
なるべく、梅長蘇の意に添ってやりたいと思っていた。
ずっと、この行軍中の様子は、痩せ我慢かとおもっていた。
梅嶺が近づくにつれ、冰続丹など無くても、この通り元気なのだと、、、そう、長蘇の背中が言っていた。
痩せ我慢ならば、長い行軍の間に無理が蓄積し、必ずボロが出ると確信していた。
しかし、梅嶺での長蘇の様子からは、そう無理をしている様子でも無いようだった。
馬に乗り、梁軍の指揮を執った時ですら、ごく自然な振る舞い、、、当たり前の健康な男の姿だったのだ。
だが藺晨は、具合の悪さを長蘇が見せようものならば、どんな状況下であろうと、『寝台にこいつの身体を括りつけてやろう!、戦線離脱もアリだ。こいつの懇願なんか、絶対に聞くものか!』、そう決めていたのだ。
そして、虎視眈々と、梅長蘇の様子を伺っていたのだ。
ここに来て、急に体調が変わったのか、それとも、ここまで欺いたのか。
━━━蒙摯に先に帰れと言った時には、我慢出来ぬ程、悪かったのだ。━━━
その、幾らか前に、具合の悪さを感じていたが、藺晨を強く拒絶する何かを、梅長蘇から感じていた。
強い拒絶。
言葉を差し挟むことを許さない。
そんな長蘇の雰囲気に圧倒された、、、、。
せめて、蒙摯等と離れるまで、、、、分からないでもなかった。