黄金の太陽THE LEGEND OF SOL28
「ははは! めちゃくちゃな理屈だがお前の気持ちはよく分かるぜ。いいだろう、オレを殺ろうってんなら相手になってやるよ。丁度オレも呆気なく終わってがっかりしてたところだ。精々、いい声聞かせろよメガエラ!」
二人はまさに戦い合う、いや、殺し合うつもりであった。
「お前達、本気か!?」
「邪魔しようなんて考えんなよ、ガルシア。邪魔するならお前でも容赦なく殺す」
デュラハンさえも怯ませた睨みが、ガルシアへと向く。その眼は赤黒く、見る者全てに命の危機を感じさせるものだった。
「そうね、殺ってしまいなさい、ロビン……」
「ジャスミン! 何を!?」
加勢はしないまでも、ジャスミンはメガエラを討とうとするロビンの肩を持った。
「ロビンを殺すつもりなら、あなたは私の敵よ、メガエラ。ロビン、大丈夫よ、メガエラは私よりも弱いから!」
あはは、とジャスミンは高笑いする。
「天界の女神を愚弄するか無礼者! ジャスミンよ、そこになおれ、その無礼の極み、私が叩き斬ってくれる!」
ユピターまでも変貌していた。神々に遣える神子たるユピターはメガエラに加担していた。
「余計なことはしないで、ユピター。ジャスミンも私の獲物。手出ししたら許さないわよ」
「ユピターさん、心配せんでもメガエラさんが勝つやろ。ロビンを葬り、ジャスミンも殺せるで」
アズールも加わり、天界の者は皆メガエラに味方するような状態となった。
「バカも休み休み言えよお前ら。オレの天眼には見えてるぜ。ロビンの方が圧倒的だってな!」
「シン!?」
ガルシアは驚きの声を上げる。
「そうね、十中八九、いえ、十中十、ロビンが勝つわ。あたしの眼に狂いはない……」
シンとヒナは特殊能力、天眼を通してロビンの勝利を確信していた。
天界の者はメガエラに味方し、ウェイアードの人間はロビンに味方している。
ロビンとメガエラの争いと同時に、神子と人間との戦いも起こりそうな状況であった。
「お前達、本当にどうしたのだ!? 今仲間内で戦うような理由など……!」
「ごちゃごちゃうるせえぞ! そんなにオレ達の戦いを邪魔したいってのか。だったらガルシア、貴様からぶっ殺しても構わないぜ?」
ロビンの睨みに、ガルシアは息をも詰まるような感じがした。これ以上邪魔立てするなら本気で殺されそうな気がして声がでなくなった。
――一体何が起きて……!?――
ガルシアはひとまず落ち着き、状況を探ろうとした。しかし、皆殺気立っており、それ以上の事は探る余地がなかった。
「さぁて、そろそろ始めようぜメガエラ!」
「必ずこの刃であなたを叩き斬る。四肢を裂いて最後に首を飛ばすわ!」
とうとう、ロビンとメガエラの戦いが始まろうとしていた。その時だった。
辺りを虹色の輝きが包み込んだ。その発生源は間違えることはない。
「何だ!?」
「イリス様か!?」
虹色の輝きに当てられらた者達は、一瞬にして自我を取り戻した。
「今です、ジェラルド!」
ロビンとメガエラがイリスの輝きに気をそらされている内に、ジェラルドは二人の間に割り込んでいた。
完全に不意を打たれた二人は、反応する余地なく、ジェラルドに後ろから首根っこを鷲掴みにされた。
「喧嘩両成敗だ!」
そのままジェラルドは二人を手前に引き寄せ、お互いの額をぶつけ合わせた。
ごつんっ、と鈍いものの、よく通る音がなった。
「ぎゃっ!」
「いたぁっ!」
二人は一瞬のけ反り、痛みに悲鳴をあげた。かしゃかしゃ、とメガエラは両手の剣を落とし、両手で鈍く痛む頭をおさえる。
「いたたたた……あんた、女神の私に何てことしてくれるのよ!?」
復讐の女神であり、普段から好戦的な性格のメガエラが、涙目でジェラルドに詰め寄った。
「ててて……ジェラルド、何すんだよ。頭がパッカリ割れちゃったらどうするんだよ……」
ロビンは赤くなり始めた額をおさえながら口を尖らせる。
「やれやれ、やっと目を覚ましたか。ずいぶんと手間取らせてくれたもんだぜ……」
ジェラルドは二人にあまり取り合わず、ただ呆れたため息をつくだけである。
「……操られてたんだよ、お前ら、いや、オレとガルシア、そしてイリスを除く全員がな……」
これ以上詰め寄られる前に、ジェラルドは説明を始めた。
※※※
アズールの精霊魔法の使用により、石板に封じられていたイリスは解放された。異変はこの直後に起きた。
「よかった、生きて……」
メガエラが、抱きしめていたイリスを横たえた瞬間、部屋の内部が妙な輝きに包まれた。
「何だ? 今光ったけど……」
ジェラルドは光りを感じ、違和感を覚えた。
次の瞬間、バチっ、とメガエラから衝撃が発せられた。その方向には当然のこと、ロビンがいた。そしてデュラハンも。
「っ!? デュラハンがいない!?」
ロビンに切っ先を突きつけられ、完全に動きを封じられていたはずのデュラハンが、忽然と姿を消していたのである。
「なんの真似だ、メガエラ?」
ロビンは、メガエラからの突然の攻撃を紙一重でかわした。
「知れたこと、デュラハンに引導を渡そうとしただけよ」
メガエラは言うものの、その先にデュラハンはいない。
ジェラルドは何が起こっているのか把握できずにいた。
そうこうしている内に、ロビンは剣で突き刺すような動きを見せた。そこには何もないというのに、まるでさっきまでいたデュラハンを刺したかのようだった。
「ほら、デュラハンはたった今オレがぶち殺してやったぜ。オレより遥かに弱く、お前よりも圧倒的に強いやつをな!」
ジェラルドは、いよいよ訳が分からなくなってきた。何もない空間にデュラハンがいるかのように二人は振る舞い、更には敵意を向けあっている。
「さて、メガエラ。お前の望みは何だ?」
「私は復讐の女神。憎きデュラハンに復讐を果たすはずだった。けれど直接的にはできなかったけど、デュラハンよりも強いあなたを殺せば私の復讐は果たされる」
ロビンはメガエラの言葉に大笑いした。そして、今しがたデュラハンを刺し殺したと思い込んでいるロビンは、あっさりと決着がついた事を退屈に思い、メガエラの挑戦を受けるつもりでいた。
さすがにそろそろ、二人を止める者が出てくるだろうとジェラルドは思っていたが、結果は全く違うものとなった。
「いいわ、殺ってしまいなさい、ロビン。大丈夫よ、メガエラは私よりも弱いから」
ジャスミンから出た言葉だった。
「天界の女神を愚弄するか無礼者! この小娘、そこになおれ、その無礼の極み、このユピターが叩き斬ってくれる!」
ジャスミンの言葉を皮切りに、仲間内での争いがまさに始まろうとしていた。
――これは、まさか……?――
思いもよらない出来事の連続に、混乱していたジェラルドであったが、ジャスミンの発言に既視感を覚えた。
それはあまりにも似ていた。いや、似ているどころか、全く同じと言っても過言ではない。
スターマジシャン、シレーネが創り出した島に初めて上陸したとき、一緒にいたロビンとイワンの言動と同じだった。
そうなれば、ここにいる者、ジェラルド以外全員が操られていることとなる。操り同士討ちさせることがデュラハンの目的だと、ジェラルドはすぐに分かった。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL28 作家名:綾田宗