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さみしさの後ろのほう 6~10

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8

不思議な夢を見た。

何処でもあって何処でも無い場所に俺は居た。立っているのに座っている時よりずっと視界が低い。真っ白で筒状になっている自分の腕を見て、嗚呼あのぬいぐるみになっているのかと俺は悟った。

「うさぎさん?」

よく知ってるものより少し高い声が響く。振り返ると良い所の小学校の制服を着た小さな少年が俺の顔を覗き込んで来ていた。
癖の無い黒い髪に、オニキスみたいなキラキラした眸。そして、この時からかよ、相変わらずの仏頂面でこいつが誰だかなんとなく分かった。

「可愛いですね」

そう本当に思ってるのか分からないテンションの低さで言う。そんな事言われた事も無いし、言われたいとも思った事も無いのだけど、今の俺はぬいぐるみだしなあ、と取り敢えず礼を述べておく。

「可愛いものは好きか?」

子供は少し迷った後、好きだけど嫌い、と矛盾した答えを出した。

「本当は好きですけど、私は男の子で、菊とか皆の中で一番お兄ちゃんですから。皆を守れるぐらい強くなきゃいけないから、だから、うさぎさんとかで遊んでたら駄目なんです。だから嫌い」

子供の癖に抑揚も無く、淡々とそう言った。
どうして好きなものを好きと、そうだけ言わないのか。何だか少し腹が立った。

「じゃあ嫌いじゃなくて好きなものは?」

ぱちぱちと数回瞬きして、子供は俯いた。今は俺の方が小さいからそれでも表情は見える。
少し伏せられた睫毛が色濃く影を落とし、光の当たらなくなった眸は完全に黒に飲み込まれてしまった。
無表情は変わらない筈なのに、何だか苦しそうな顔をしているように見えて、胸が苦しい。
どうしてあんな事聞いたんだ。後悔している俺を責めるように、少年はぽつりと呟いた。

「分からない」