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逆行物語 裏六部 ~それぞれの時間~

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カッシーク~上位者の論議~



 ヴィルフリート様が1つ頷いて続けた。
「先程、理想と現実は違うと言ったが、そもそも2人の子を貴族として育てられない場合がある。その様な場合、まず跡取りが優先とされる。即ち男子が求められる。にも関わらず、長子が女子ならば、男子が産まれる事を願い、第2子を望む。それも、母体の年齢や成長に伴い増加する必要経費を考えて、娘が洗礼前に産み落とそうとするだろう。
 ――洗礼前の娘を使用人に落とす為に。」
 フィリーネが感情を押さえられていない。ガタガタ震えている。
「仰る通りです。男子が産まれれば、フィリーネは使用人に落とす予定でした。そうなっていたならば確かに…、将来は誰かの愛妾にしていたかも知れません。」
 男子の使用人なら一生家に遣えさせる事を考えるが、女子ならば政略に使うだろう。
「お父様っ!!?」
 フィリーネが叫ぶ。だが事実だ。テレージアが高みに昇ったから、フィリーネは貴族になれたのだ。
「やはりか。だがフィリーネは理解していないな。」
 ヴィルフリート様が溜め息を吐かれた。
「フィリーネ、今、つまり現時点において、この家の次期当主は誰かと言えば、それは其方だ。だがそれは正確には恐らく、が付く。何故か解るか。」
 フィリーネは解っていない様だ。
「跡継ぎは当主が決めるモノだからだ。そして外の者は外から見えるモノしか見ない。現時点で当主の子は其方1人。だから恐らく其方が次期当主だろう、と予測する。
 同様に数年経ち、コンラートが洗礼式を迎えたら、次期当主の予測は男子であるコンラートに移る。
 では此所で尋ねる。この家の当主は誰だ?」
「…お父様です。」
「跡継ぎを決めるのは当主だ。よって跡継ぎはカッシークが決める。だから外は推測でしかモノを言えぬ。フィリーネ、今、この家の正式な跡継ぎは誰だ?」
「…居ません…。」
 目から鱗、とはこの事だろう。私は頑なになっていた娘が変わろうとしている姿を見た。
「そうだ、居ない。だが其方を正式な跡継ぎと言った者が居たな。それは誰だ?」
「母方の親戚です。お父様は入り婿だから本来は家を守るのは、お母様の血を引く私だと…。」
「洗礼式で付き添いもしない親族が何故、その様な事を言ったか解るか?」
「!」
 フィリーネは強張った顔を私やヨナサーラに向け、ヴィルフリート様を見た。
「…はい。私がローゼマイン様の側近に選ばれたから…。」
「そうだ。付き添いをせぬと言う事は、後ろ楯にならぬと言う事だ。詰まり其方は母無し子。テレージアの娘では無い。にも関わらず、次期当主候補となれる。それはカッシークが其方の父だからだ。
 最早、テレージアの親戚が関われる問題ではない。だが其方がローゼマインの側近に、と言う話が出た途端、すり寄って来た。おこぼれ欲しさにな。」
 フィリーネは打算はある事は分かっていただろう。だがフィリーネは赤の他人――本来、公式で親族とならぬ者は赤の他人だ――がすり寄って来たとは思っていなかった。