Lovin’you afterCCA14
リーダーと思われる男の声が響き渡る。
「もしかしたらまだ中にいるかもしれん!中をしらみつぶしに探せ!」
残りの男達が階段を駆け上がってくる足音がする。
『まずいな…』
アムロは窓へと近づき脱出路を探す。
窓から隣のビルの屋上が見える。
「ここから…一メートルくらいか…」
部屋の中を見回し、古いベッドのマットレスを見つける。
そして、子供達の中で一番年長と思われる子供に声をかける。
「君、名前は?」
「え…あ…僕は…テウ…」
「テウか!良い名前だね。君にお願いがあるんだけどいいかな?」
「う、うん」
「そこのベッドにあるマットレスを使って隣のビルに移ろうと思うんだ。でも私はこんなお腹だから一人でマットを運べない。だから君に手伝って欲しい。頼めるかい?」
テウはにっこり微笑むアムロを見つめ、コクリと頷く。
「ありがとう!テウ」
二人がマットレスを移動していると、他の子供達も手を貸してくれる。
そしてみんなで力を合わせ、窓枠から外に出したマットレスを隣のビルの屋上へと滑り台のように立てかけた。
「よし!それじゃ順番に移動するんだ」
マットレスを部屋にあったロープで固定して一人ずつ移動させる。
五階建てのビルから移動するのだ、流石に子供達が躊躇する。
「怖くないよ!滑り台だ!」
楽しげに話すアムロにつられて、子供達が順番にマットレスを伝って隣のビルへと移動する。その時ふと、アムロは隣のビルから知った気配を感じる。
最後にテウを移動させ、直ぐにみんなを連れて物陰に隠れるように指示する。
「テウ、助けが来ているはずだからみんなを屋上の入り口に連れて行くんだ。いいね?」
「お姉さんは?」
「私も直ぐに行くから」
「うん、分かった!」
子供達の移動が完了したその時、部屋のドアが蹴やぶられた。
「こんなところにいやがった!このアマ!」
アムロに向かって三人の男が歩み寄る。
「ガキはどうした!?」
「子供?何のこと?知らないよ」
「嘘を吐くな!」
「本当に知らないって!」
男がアムロの胸ぐらを掴んで詰め寄る。
「ちょっと!離せ!」
「てめぇが素直に吐けば離してやるよ」
「いや、離さないとアンタがヤバイ」
「は?何言ってやがる」
と、男が言った瞬間、銃声が響き渡り男が吹き飛ぶ。
「なっ!何だ?狙撃された!?一体どこから!」
他の男が体を伏せながら窓の外を伺う。
「すぐにこの部屋から出て行け!でないと死ぬぞ」
アムロが男達に向かって叫ぶ。
「ふざけるな!」
一人の男がアムロを羽交い締めにすると、盾にするようにして窓の外を確認する。
「くそっ!どこだ!?」
「あー、やめた方がいい。今すぐ投降すれば命は助かると思うよ」
「そんなこと出来るかよ!あのガキどもを売り飛ばせば莫大な金が入るんだ!」
アムロに銃を突きつけて男が叫ぶ。
もう一人の男も身体を伏せながらアムロに迫る。
「私は忠告したからな」
アムロは溜め息を漏らすと目を閉じる。
その瞬間、パシュンっと音を立ててアムロを羽交い締めにしていた男の眉間に銃弾が撃ち込まれる。
そして、同時にアムロがもう一人の男の腕を撃ち抜き銃を弾き飛ばす。
「アムロ!無事か!?」
そこに、扉を蹴破り駆け込んで来たレズン少尉が腕を撃たれた男を殴り倒して拘束する。
「レズン少尉、その男がリーダーだから殺さないで」
「チッ!了解」
一緒に入ってきたギュネイと共に男達を拘束して特殊部隊に引き渡す。
ビルは既に特殊部隊によって制圧されており、隣のビルの屋上に隠れていた子供達も無事に救出されていた。
そして、隣のビルの屋上から金色の髪を揺らしながらシャアが姿を現わす。
無表情のまま、手にしていたライフルを側にいた隊員に渡すと、アムロのいるビル向かって歩いてくる。
「レズン少尉…あの感じ…やっぱりシャアの奴…怒ってるかな…」
アムロが顔を引攣らせながら思わず後ずさる。
「まぁ…怒ってる…かな…。諦めてちゃんと叱られな」
「ええ~レズン少尉助けてよ~」
「勘弁してくれ!とばっちりは御免だよ!」
「レズン少尉~」
そうこうしている間に、軽くビルを飛び越えてアムロのいる部屋へとシャアが足を踏み入れる。
「あ…えっと…その…ごめんなさい…」
無表情のままこちらに向かってくるシャアにとりあえず謝る。
しかし、その声に答えることなくシャアはズンズンと足を進め、アムロの正面に立った。
「君は、何に対して謝っているのだ?」
「それは…その…勝手に無茶な事して危険に首を突っ込んでしまったから…」
「何故無茶をした?」
「…攫われそうになった子供を見過ごせなかった」
「直ぐに警備に連絡をすればよかったのではないか?」
「それじゃ間に合わなかった。私なら見失わずに追えると思った」
アムロの言葉に、シャアが大きな溜め息を吐く。
「アムロ!」
「心配させてごめん!反省してる」
頭を下げるアムロの肩をシャアがギュッと掴む。
「本当に分かっているのか!?」
「わ、分かってるよ!…ごめん!」
ギュッと目を閉じて身構えるアムロに、シャアは盛大に溜め息を吐くと、肩を掴む腕の力を抜いてアムロの顔を覗き込む。
「怪我はないか?」
「う、うん。ギュネイ准尉が守ってくれたから…あ、でも代わりに彼が怪我を…」
「ギュネイ、大丈夫か?」
側にいるギュネイへとシャアが声を掛ける。
「は、はい!大丈夫です。大した事はありません!」
ギュネイは背筋を伸ばし、敬礼しながら答える。
「うむ、お前には後で話がある。まずは傷の手当てをして来い」
「うっ…はい…」
「シャア!ギュネイ准尉は悪くない!私が彼の制止を振り切って…!」
「アムロ、君は黙っていろ」
「っ!」
「分かったな、ギュネイ」
「はい、大佐」
ギュネイは敬礼をすると、そのまま部屋を出て行った。
それを見送り、シャアがアムロに向き直る。
「アムロ、君は今、自分がどういう状態か分かっているのか?身重の身体で無茶をして、君や子供達に何かあったらどうする」
「…ごめん…。反省してる…」
アムロはそっと自身のお腹を撫で、子供達の無事を確かめる。
「ただでさえ君の身体に負担が掛かっている。何かあってからでは遅いのだぞ」
「うん…本当にごめん」
今更ながらに自分の無謀な行動が己だけでなく、お腹の子供達をも危険に晒したのだと気付く。そして、愛する人に酷く心配を掛けてしまった。
もし反対の立場だったら、きっと身を引き裂かれるような思いを抱える事になっただろう。
怒りながらも、心配そうに自分を見つめるシャアの顔を見上げ、その心情を想う。
「心配かけて…ごめん」
シャアの頬に手を添えて、その瞳を見つめ返すと、シャアが少し屈んで額同士を触れ合わせる。
「本当に…君が無事で良かった…」
絞り出す様なシャアの声に、アムロは思わずギュッとシャアを抱き締める。
「シャア!」
互いに身体を寄せ合い、その存在を確かめる様に抱き締め合う。
すると、重なった身体越しに、ぽこぽことシャアの腹部を胎児がノックする。
「!?」
その感覚に驚いて、シャアがアムロのお腹を見つめそこにそっと手を当てる。
すると、掌に先程感じた振動が伝わる。
「アムロ!」
「ふふ、元気みたいだね」
「凄いな、本当にここにいるのだな」
「今更何言ってるのさ」
作品名:Lovin’you afterCCA14 作家名:koyuho