テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
アルビオールで接岸し降り立つとそこは砂塵で煙っていた。アッシュとしても、ルークとしても、ここに来るのはいつぶりだろうか。
「この島、こんな所にまで流れて来てたんだな」
ガイがアルビオールから降りながら口にした。確かに、以前はもっと北方の海上を漂っていたはずだ。二年の間に、随分南下してきたらしい。
フェレス島。元はホド大陸の対岸に位置し、美しい建築様式で統一されていることで有名な島だった。ホド大陸崩落の折りに津波で全壊し、今ここにある廃墟群はそのレプリカだという話だ。そのため浮島のように海上を漂いながら移動している。レプリカで複製しても津波で崩壊した状態でしか復元されなかったらしく、本来の美しい街並みは見る影もない。さらに時が経ち、人の手も入らず潮風に晒されていたためか以前よりも荒れている印象がある。
「ノエル、いつでも飛び立てるように準備だけは頼む」
「任せてください。あと…これ通信機です。機内に繋がるので、何かあれば使ってください」
ルークがノエルから小型の通信機を受け取り、胸元に仕舞う。
「先ほど3号機を通じてバチカルに連絡しましたから、すぐに応援が来るとは思いますが…無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう」
「行ってくるわ」
ノエルがアルビオールの機内に戻る。少し歩くと埃を吸ったティアが軽く咳き込み、それをガイが気にかける。
「どこか建物に入った方が良さそうだな」
ルークの提案に二人が頷き、一番近くの建物に入った。
「例の鳥はどこにいるんだろうな」
「さすがに隠れた場所までは見えなかったからな…」
「しらみ潰しに建物内を探すしかないわね」
建物の中に入れば砂埃は多少ましであったが、それでも少し歩けば床に積もった埃が舞い上がる。それは、長いこと人の出入りが無いことを示していた。
「ハズレっぽいな」
一先ず今入った建物を調べ終え、外に出る。次の建物へ行こうと橋を渡ると、ルークとティアの背後でバチッと音がした。振り返ると、ガイが自分の右手のひらを見つめて棒立ちしていた。
「ガイ?」
どうしたんだ、と言って引き返そうとするとバチッという音と共にルークの身体を軽い電流が駆け抜ける。
「!」
「大丈夫!?」
思わぬ衝撃によろめくように一歩下がり、駆け寄ってきたティアに支えられた。
「なんだこれ…」
ガイが右手を前方に突き出すとそこにパチパチと静電気のようなものが集まる。ガイの右手は見えない壁に押し返されるような反発力を感じた。
「結界、かしら」
「つまり俺はここから先進めないってことか」
ルークやティアも試してみるが、ガイと同様に押し返されてしまい、戻ることができない。
「…完全に分断されたな」
「そんな…」
これもあの光る鳥の仕業だろうか。未だに目的が見えてこないが、罠だとしてもこうなった以上進むしかない。
「ティア、もう少し奥まで進んでみよう」
「わかったわ。わざわざ罠を張るということは、この先にナタリアがいる可能性も高いものね」
2人は頷いて、ガイの方を見る。
「俺は他の道がないか探してみる。二人とも、気をつけろよ」
「は?ひとりじゃ危ねえだろ。大人しくアルビオールに戻ってろ」
「おいおい、ここまで来てそりゃないだろ」
「いいえ、彼の言う通りだわ。魔物の気配もあるもの、応援が来るまでアルビオールで待機しててちょうだい」
この状況では何かあっても助けられないのよ、というティアに押し負けてガイは渋々承諾した。
「本当に気をつけろよ!」
「わかってる!」
奥へ進む2人をその姿が見えなくなるまで見送って、ガイは来た道を戻っていった。ルークとティアはふたり、砂塵の立ち込める廃墟の中を進むこととなった。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏