テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
ルークが前を歩き、その後にティアがつづく。足元に転がる小さな瓦礫を蹴飛ばしながら、ティアが着いてきていることを背中に伝わる気配で感じ取る。なんとなく後ろを振り返ることが出来ず、無言でルークは歩く。ティアも何も言わない。それがより気まずさを助長し、むしろ何か話してくれよ、とルークは思った。
一部崩れかかった階段に差し掛かり、ルークが先に登ってティアに手を差し伸べる。
「ありがとう」
ティアがルークの手を取り、腕の力で彼女の体を引き上げる。ティアは段差を予想以上に軽々と乗り越えて、手助けは必要なかったかもしれないと思った。
「…危ない!」
ティアが顔を上げると同時に叫び、ルークの肩越しに暗器を投げる。
ギャア!
声の方向を振り向くと鳥型の魔物が翼に暗器を受け悶えていた。
「魔物か!」
「気をつけて!」
腰に差した剣を引き抜き魔物に切りかかる。初手の暗器で怯んだ魔物の動きは悪く、ティアの譜術の助けもありあっという間に方が付いた。
「こいつ一体だけか」
「そのようね」
魔物が霧散したことを確認して、納刀しながら辺りを見渡す。ティアが投げ払った暗器を回収するのを見て、ルークも足元の暗器を拾い上げる。軽く振って汚れを払い、ティアに手渡した。
「なんだか、最初を思い出すわ」
ルークが公爵邸でティアと初めて出会い、タタル渓谷へ飛ばされた時の事だろう。初対面の無愛想な不法侵入者と世間知らずのお坊ちゃまは文句を言い合いながらも協力して渓谷を脱し、長閑な農村にたどり着いたのであった。
「あなた、最初は私が武器を拾う間もただ棒立ちして見てた」
「…よく覚えてんな、そんなこと」
最後の暗器を懐に仕舞いながら、ティアが立ち上がる。
「その分、初めて手伝ってくれた時はすごく嬉しかったから」
(ああ、あの時か)
ふわり、とティアが微笑む。脳裏を過ぎる光景。湧き立つ水と、豊かな草花。涼しくなった首元、ざわつく心。初めて彼女に暗器を手渡した時の笑顔と、目の前のティアの笑顔が重なり、どきりと鼓動が跳ねた。
「っ…」
一瞬、世界から音が消える。自分の前にいるティアから目が離せなくなる。左手が無意識に持ち上がり、ティアとの距離を縮める。
「ティア、俺は…」
この時、何を言おうとしたのかはわからない。その言葉がそれ以外続くことはなかったからだ。
《 ピーピー!ピーピー!》
「!?」
突如懐から鳴り出した電子音にビクッと体が揺れる。慌てて探ると、ノエルから受け取った通信機が鳴っていた。よく分からないなりに点滅しているボタンを押す。ザザっというノイズの後、通信機は喋り出した。
《 よおルーク!無事か?そっちはどうだ!》
「が、ガイ…!?」
まるで見られていたかのようなタイミングに無駄に焦るルーク。声が裏返った。
「ガイはノエルと合流できたみたいね」
《ああ、こっちは特に問題ない。ティアもルークも無事みたいだな》
「お、おう…俺達も何も無かったぞ」
《そうか。何かあればいつでも連絡しろよ!じゃあな》
プツッと音がしてそれ以降通信機は何も言わなくなった。取り戻される静寂。ふつふつと気恥しさが襲ってきて、顔をあげることができない。
「さっき何か言おうとしてなかった?」
「なっ…なんでもねえよ!忘れろ!」
悪気なく訊ねてくるティアから顔を背けてルークは歩き出す。
「ちょっと、どうしたの?」
「いいから行くぞ!」
「何怒ってるのよ」
変な人、と言いながらティアがその背を追う。二人の距離は、先程よりもほんの少しだけ縮まっていた。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏