二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

INDEX|17ページ/60ページ|

次のページ前のページ
 

 * * *

 その部屋に踏み込むとふわりと女性らしく高貴な香りが鼻孔をくすぐる。質の良さを感じさせながらも過度な主張はしない、持ち主の感性を感じさせる調度品が揃い、床には柔らかな毛足の長い絨毯が敷かれている。窓から差し込む日差しは強すぎも弱すぎもしないようしっかり調節されていた。その中央に位置する、天蓋付きの寝台に眠る女性の顔を覗き込む。
 瞼はしっかり閉じられ、寝息は規則正しい。頬にかかった緩く波打つ金の髪をどかしてやりながら、じっと見つめる。
 女性は傍目にはただ眠っているようにしか見えない。しかし、彼女が今落ちているのはただの眠りではなかった。その実態は、譜術によって与えられた強制的な昏睡だ。術が解かれない限り、その瞼が動くことは無い。様々な医者や譜術士が彼女の容態を診ていったが、誰一人彼女を眠りから覚ますことはできなかった。
 一定のリズムで浮き沈みする胸元を見守りながら、ぱたりと尻尾を揺らす。その時、キイ、と部屋の扉が動く音がした。
「ここにいたのか」
 声の主はなるべく足音を立てないように歩き、ベッドの横に立つとその小さな体をひょいと両手で抱き上げた。
「ダメだろ、女性の部屋に忍び込んだら」
 見つかったら俺が大目玉だ、と逃げられないようにしっかり抱え込まれる。男はベッドに横たわる女性の顔を数秒見つめた後、また視線を腕の中の獣に戻す。
「…ナタリア、早く起きるといいな」
 同感の意を示す為に耳を動かす。男が獣の頭を撫でて外へと歩き出し、その肩越しにだんだん離れていくベッドを見つめる。
 彼女の目覚めの時、それは彼女の望みが叶う時。その時が早く来るといいと願いながら、男がそっと閉めた部屋の扉を眺めていた。