テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌
* * *
「どういう、ことなの?」
呆然とルークの顔を見つめたあと、やっとの思いでティアが発した最初の言葉がそれだった。ルークはどこから説明したものかと頭を掻く。
「俺もまだぼんやりしてて、上手く話せるかわからねえんだけど…」
地殻から帰ってきてからこの身体の主はアッシュであったこと。その間、自分は夢を見ているように、アッシュの見聞きするものをぼんやりと共有してきたこと。今目が覚めたらアッシュの存在は感じず、自分だけになっていたこと。
自分の言葉で、自分の頭を整理していくようにゆっくり話す。ティアは多くの言葉は挟まず、時々頷きながら耳を傾けていた。ティアの膝の上のミュウはルークの顔をじっと見つめている。
「つまり、フェレス島で意識を失った時にアッシュが消えたということ…?」
「…多分」
ティアは口を噤み、考え込んでしまう。
(こんな話、信じられねえよな…)
俺自身もまだ信じられないのに、とティアから目を逸らす。次にティアの口から出る言葉が何なのか想像しかけて、やめた。もし否定されてしまったらと考えるだけで胸のあたりがきゅ、と詰まるようだ。
カタ、と音がしたと思ったらティアが椅子から立ち上がっていた。無言でミュウを突き出すように腕を伸ばし、それをルークは条件反射で受け取る。ルークの手に移ったミュウは目をぱちくりさせている。
「ティア?」
「ちょっと、ごめんなさい」
それだけ言ってティアはルークに背を向け、足早に部屋を出ていってしまう。
「ああティア。ルークが起きたって…」
外からガイの声がした。それに対するティアの返事は聞こえなかった。不思議そうな顔をしたガイが廊下を見やりながら部屋に入ってくる。
「おいルーク。ティアに何したんだ?」
「な、何もしてねえよ!…ってガイ、そいつ…!?」
人聞きの悪いことを言うガイを睨むと、その腕の中の生き物に目が奪われた。ガイの肩越しに扉の方を見ているため背中しか見えないが、薄緑色の体躯、長い耳に大きな尻尾。間違いないあいつだ、と思ったら生き物はガイの腕をすり抜けて部屋から飛び出してしまった。
「あ、こら!」
その背をガイは追いかけようとしたが、
「ガイ、あいつが見えるのか…?」
「どういうことだ?」
ルークの唐突な質問に踏みとどまった。
「だってあいつは」
アッシュにしか見えていなかったはずなのに。続く台詞はガイに遮られ、音にはならなかった。
「確かに吹けば飛びそうな雰囲気してたけどさ」
「は?」
「ティア。今にも泣き出しそうな顔してたぞ。また何か余計なこと言ったんじゃないのか?」
ティアの話じゃねえよ、と言おうとしたが、それよりもガイの言葉が気になってしまう。
「…なんで」
「いや、こっちが聞いてるんだが」
全くわからない、という顔をするルークにガイがやれやれとため息をつく。
「お前が病み上がりでなければ今すぐ追いかけろって言うとこなんだが」
「気になるならガイが行けばいいだろ」
「いいのか?俺が行って」
「ぐっ…」
思わぬガイの反撃に沈思するルーク。そんな彼を見てガイが、おや?と首を傾げる。
「…別に、俺には関係ねえし」
「ルークお前…」
こんな事を言うとまた、素直じゃないとかひねくれ者とかなんとか怒られるんだろうな、と思っているとガイは全く予想とは違うことを言った。
「なんか雰囲気変わったな?」
この男は紛れもなく、自分の唯一無二の親友なのだと思った。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌 作家名:古宮知夏