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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌

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 瞳からこぼれた最後のひと雫を動物の舌が舐めとって、頬を乾かす風を感じながらひとつ決意を固め、ティアは足をファブレ公爵邸へ向けた。
 門扉をくぐり玄関に入ると、そこにはルークとガイがいた。
「よかった、おかえりティア」
「どうしたの?こんなところで」
 ルークの体はもういいのかと彼を見やる。
「帰りが遅いから探しに行こうと思ってたんだよ」
 ティアの質問にガイが答える。ティアの腕からガイの左肩へと動物が飛び移った。
「お前がティアを迎えに行ってくれてたんだな」
 ありがとう、とガイがその首元を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。
「…どこ行ってたんだよ」
 初めて口を開いたルークは不機嫌そうに腕を組んでいる。
「街を歩いていただけよ」
 つい口調がきつくなり、あなたには関係ないでしょと言いそうになって慌てて口を噤む。それでもルークがムッとしたのがわかった。
「まあまあ。ルークも心配してたんだ。な?」
 2人の不穏な空気を察してガイが仲裁に入るがルークはぷいっと顔を背けてしまう。
「別に心配なんてしてねえよ!」
「…あ、そう」
 相変わらずふたりとも素直じゃないな、と言うガイをティアが冷たく一瞥すると、彼は困ったように笑った。
「私よりも、あなたは大丈夫なの?」
「ん?ああ…」
 左手を閉じたり開いたりしながらルークが答える。
「特に変なとこはないみたいだ。飯も普通に食えたし、まだ記憶が混乱してるくらいかな」
「そう…」
 それでも不安げに眉尻を下げるティアを見て、ルークが更に言い立てる。
「ほ、本当に平気だって!寝てたところを叩き起された感じっつーか、不思議な感じはするけど体は動くし意識もはっきりしてんだか…ら」
 ティアの表情を少しでも変えようと焦るルークを見守るガイの顔はニヤついていた。それが無性に腹立たしく映り、ルークは指をさして声を荒らげる。
「何だよそのムカつく顔!つーかそいつ!そうだ、そいつだよ!」
「お?」
 ガイの顔からその横にある動物の姿に指先を合わせ、ルークが問い詰める。
「お前ら何時(いつ)からそいつが見えてたんだよ!?」
「見える?」
「いつからって…」
 ティアとガイが顔を見合わせ、再びルークに視線を戻す。
「こいつはフェレス島でお前達三人が倒れている所まで案内してくれたんだぞ」
「はぁ…?」
「二人が探索に入ってしばらくしたら増援としてジェイドやアニスがフェレス島に到着したんだが、例の結界で立ち往生しててな。そしたらアルビオールにお前の通信機から入電があった。だが何も聞こえてこない上、返事もないから何かあったと思って外に出たらこいつがいてさ」
 ガイは自分の左肩に乗る動物の顔の前で右手をちょいちょいと動かす。動物のほうもそれを見て右脚を浮かし、尻尾を振っていた。
「いつの間にか結界も消えていて、こいつの後を追って中に入ったらお前達を見つけたんだ。ティアはすぐに目を覚ましたけどお前とナタリアは起きなかったからみんなでアルビオールに運んだんだよ」
「…そうだったのか」
 ガイの意識がルークに移った隙に動物の右脚がガイの右手を捉える。ぺしっと音がして、ガイが小さく「いてっ」とこぼした。満足したのか胸を膨らます動物の顔はどこか誇らしげに見える。対するガイの表情はにこやかだ。
(仲良いな)
 自分が眠っていた三日の間に何かあったのかもしれない。
「そいつ、俺……アッシュにはもっと前から見えてたんだ」
「そうなの?」
「うん」
 ナタリアを見つけられたのも、こいつの後を追ったからだと言うとティアは首を傾げた。
「私も、この子を初めて見たのは気を失って、ガイ達に見つけてもらった時よ。…どうして見えなかったのかしら」
「逆になんで見えるようになったのかがわからねえ」
 ちょっと触ってやろうと思い、ガイの左肩の上にいる動物に手を伸ばすと反対側に逃げられた。
「……」
 ならばと右肩側に手を伸ばすと今度は背中に隠れてしまった。
「…なんでだよ!」
「嫌われてるのか?」
「いじめたりしたんじゃないの」
「んなことしてねえよ!」
 二人の言い掛かりに腹を立てると、ガイの背中から動物がひょこりと顔を出してルークの頭に飛び乗った。
「わっ」
 動物は軽いので衝撃はほとんど無いが思わず首を竦める。頭上の動物の様子は見えないが、後頭部の方で尻尾が揺れているのがわかった。
「…嫌われてるっていうより」
「舐められてるな?」
「はぁん!?」
 捕まえてやろうと頭上に手を伸ばすがぴょんぴょん飛び跳ねて上手く躱される。完全に遊ばれていた。
(可愛い…)
 ルークと動物の攻防戦を眺めていたら動物がティアの方へ飛んできた。得意げにティアの肩を占領する動物に対し、ルークは観念したように肩を落とした。
「なんなんだよそいつ…」
「大佐は“フィルフィスパニア”って言ってたわ」
「ふぃる…?」
「タタル渓谷にしか生息しない珍しい生き物なんだとさ」
「ふーん」
 興味ないな、とガイが苦笑いする。
「そのふぃる…なんとかっていうのがこいつの名前なのかよ」
「名前って訳じゃあないが」
「長ぇし呼びづれえな。…よっしゃ、お前は今日から“ブタヌキ”だ!」
「!?」
 聞いた途端動物が身を固くした。ガイもティアも、ルークのネーミングセンスに絶句していると動物が再びルークの頭に飛び乗り、爪を研ぐようにルークの髪をバリバリと引っ掻きだした。
「いててててて!やめろ!ハゲる!!」
「抗議の意を示してるな」
「…それじゃそうなるわよ」
 なんとか頭上から引き剥がすと、その前脚に数本長い赤毛が持っていかれているのが見えて切なくなった。
「くそぉ…ただでさえアッシュのやつがオールバックにしてたから気になってんのに…」
「そうだったのか……」
 ガイが心底同情的な目をしてくる。動物はルークの手の中でパタパタと手脚をばたつかせていた。
「…じゃあ、“フィフィ”」
「フィルフィスパニアだから?」
「安直だな」
 しかし動物の方は気に入ったのか、暴れるのをやめて尻尾をゆるゆると振っていた。
「決まりだな」
「ルークにしてはまともね」
「どういう意味だよ!」
 フィフィはするりとルークの手から抜け出し、またその頭に腰を据える。
「…なんで俺だけ頭なんだよ」
 他のやつの時は肩じゃねえか、と言ってもフィフィはどこ吹く風だ。
「心配してるんだろ…お前の頭を」
「温めると血行が良くなるし、髪にもいいんじゃないかしら…」
「余計なお世話だっつーの!むしろ刺激で逆効果だろ!!」
 やっぱり降りろ!と喚くルークを二人が笑う。それは、ルークが地殻に降りてから長く見られなかった光景だった。